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乃木坂散歩道・第194回「『聖母』秋吉理香子」

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 コインロッカーで46番が空いていると嬉しかったり、明治のCMのチャイムが流れると、頭の中で「ぐるぐるカーテン」がいまだに流れたり、メールを送る時のタイトルが思いつかない時、とりあえず「やーい(¨)ノ」と書いてみたり、『さいとう』さんに出会った時、どの漢字の『さいとう』さんかを意識するようになったり。そんな乃木坂ファン特有の症状(乃木ヲタあるある)を僕は『乃木坂症候群』と勝手に名付けて、そして、楽しんでいます(笑)

 先日、新聞広告に載っていたタイトルを見ただけで、すぐに購入を決めた小説があります。そのタイトルは、なんと『聖母』(秋吉理香子 著)。これも『乃木坂症候群』だと思います。
 せっかく出会えた一冊の本、これもまた縁です。『読書の秋』ですから、一つ読書感想文を書いてみたいと思います。

「もう一度、という共通点」

 この小説を読み終わって感じたのは、13thシングル・カップリング曲「嫉妬の権利」のMVと共通点があるなって事です。『すぐにもう一度観たく(読みたく)なる』ということです。(MVをまだご覧になっていない方には以下にネタバレになる箇所があります)


「嫉妬の権利」(乃木坂46 OFFICIAL YouTube CHANNELより)

 「今、話したい誰かがいる」Type-Cに収録されている「嫉妬の権利」のMVでは、映像に一つ『トリック』が仕込まれています。最後まで見るとわかり易い解説がありますが、それでも、ボクはすぐにMVをもう一度見返してしまいました。自分の目でもう一度確認したくなる、「嫉妬の権利」の『トリック』にはそういう魅力があります。

 長編ミステリーである『聖母』も二度読みたくなります。というか、二度目が楽しいわけです。
 ミステリーの魅力の一つに『伏線回収』があります。ミステリーにおいては、作中の事件が最後には完璧に解決します。その『解決の過程』で読者をうならせる役割を持つのが『伏線回収』です。
 ミステリーは読者に『フェア』でなければなりません。『証拠』や『動機』を文中で提示していなければいけません。でも、それがあからさまであっては盛り上がらない。いかに上手く文章の森の中に隠すか? そして、その隠されたものを明快にして読者に再提示するのが『伏線回収』です。

 『聖母』では、この隠し方に『トリック』があります。そして、このトリックは『文章力』が必須の高度なトリックです。再読することで、すべての伏線が回収できる、そんな小説になっています。

「狂気という共通点」

 「嫉妬の権利」と共通点があると書きましたが、その共通点はもう一つあります。それは『行き過ぎた愛情は狂気となる』ということです。『愛情の反対語は無関心』というのは良く言われていることです。別の言い方をすると、愛情とは関心を持つ事。ただ、その関心が強くなり過ぎた時どうなるのか? 一つの例が『ストーカー』です。

 「嫉妬の権利」では、和田まあやさんや鈴木絢音さんが、若干行き過ぎた愛情を示しています。このMVに対して、SNS上では「面白い」という反応が多いようです。あくまでも創作上で乃木坂メンバーがやる分には可愛らしさが立って笑い話で済むのです。ただ、それでも北野日奈子さんはラジオ・乃木坂46の「の」(文化放送)第134回で、このMVを「めっちゃ怖い」、「鳥肌が立つ」と表現しています。彼女には『狂気』が見えているのだと思います。

 一方で『聖母』ではどうか? こちらは乃木坂と何ら関係のないミステリー小説です。笑い話ではすみません。正直、恐ろしいです。母性が狂気=凶器となる様が描かれています。母性とは、本来、疑うことなく身を任せてしまうものです。尖った部分など無いと信じているものです。しかし、この作品では母性と狂気は対極に存在するものとして突きつけられます。それが、何故、母性が狂気となるのか? ここがこの物語の『核』です。

 犯罪を犯すには、特に人を殺すまでの犯罪を犯すには、おそらく、膨大なパワーが必要だろうと推測します。そのパワーの源が、この小説では『母性』です。この意外性が、意識外からの衝撃が、この大どんでん返しが、母性を無条件に信じる、”聖母”を無条件に信じる僕達乃木ヲタを恐怖のどん底に突き落とすのです。

「以下、完全にネタバレです。御注意下さい」

 上記までは、これから『聖母』を読んでも楽しめるように、内容に関して最小限の言及にとどめています。以下の文章は、『トリック』、『犯人』に関する記述があるため、すでに読了済か、『聖母』を読むつもりが無い方を想定した文章になります。多少でも読む気がある方は、以下の文章は読了後にお読みください。じゃないと100%楽しめません。


 最後にタイトルの『聖母』を考えてみたいと思います。

 ボクの解釈としては、『聖母』というタイトルに筆者は最大の『罠』を仕掛けたのだと思います。
 『聖母』は文中に『叙述トリック』を用いています。作品中の犯人が探偵役の目をごまかすために使うトリックとは違い、『叙述トリック』とは『筆者』が文章の構成で『読者』をミスリードさせるテクニックの事です。『叙述トリック』を使うということは、読者をだます気満々の小説なわけです。タイトルに罠が仕掛けられても全く不思議ではありません。

 乃木ヲタじゃなくても、”聖母”のイメージは『慈愛』、『誰も傷つけない』、そんなイメージです。ですから、”聖母”=『殺人犯』は想定外、意識外です。しかし、この小説では殺人犯=母親なわけです。この大どんでん返しのための罠、だからこそ、敢えてタイトルは『聖母』にしたのかなと解釈しました。

 この小説を読んで改めて”聖母”の意味に気付かされます。”聖母”とは『母性、愛情、やさしさの対象が、自分の周りすべてである女性』だと思います。『対象』が極めて狭い範囲に限られる時、そして、想いが強すぎる時、その想いは母性、愛情、やさしさとは呼ばれず、『狂気』と呼ばれるのです。
 この点が、母性⇒狂気となるこの点が、この小説の軸であり、恐怖の源です。

 『聖母』は『罠』だらけの恐怖小説です。乃木坂の”聖母”である深川麻衣さんは勿論、まいみんの皆さんにも僕はお薦めしません。だって、これっぽっちも深川さんには出会えませんでしたから。むしろ、ダークな小説が好きだという齋藤飛鳥さんに読んでもらいたい小説です。

秋吉 理香子 双葉社 2015-09-16

筆者プロフィール

Okabe
ワインをこよなく愛するワインヲタクです。日本ソムリエ協会シニアワインエキスパートの資格を持ちます。乃木坂との出会いは「ホップステップからのホイップ」でした。ファン目線での記事を書いていきたいと思います。(ツイッター「Okabe⊿ジャーナル」https://twitter.com/aufhebenwriter

COMMENT

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  1. お疲れ様です。
    スマホの電池の残りが46%のときはちょっと嬉しくなって充電するのを少しためらいます(^^;)
    これも乃木坂症候群ですね。

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