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弱さと強さの奇跡的なバランスが生み出す“西野七瀬”というアイドル

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西野七瀬を捉えることは、本当に難しい。そもそもあまり喋らない。僕は基本的にテレビと雑誌でしか乃木坂46を見ないが、テレビの中の西野七瀬は聞かれなければ自分からは発言しないし、雑誌のインタビューでも、発言の合間に「(ここで沈黙)」などと書かれるくらい、スムーズな受け答えにならないことが多い。次どんな発言をするのか、次どんな表情をするのか、全然読めない。言動のベースや核となっているものをうまく捉えきれない。

しかし、西野七瀬の振る舞いや発言に触れることで、僕の中で西野七瀬を切り取るキーワードが見えてきたように思う。

それが「弱さと強さの奇跡的なバランス」だ。

西野七瀬の「弱さ」の発露

西野七瀬の「弱さ」は、様々な形で表に現れる。自信のなさやネガティブな感じは、言動に如実に現れ、それが彼女のパッと見のイメージを作り出している。

『ステージでは、なるべく行ってない場所をなくそうと意識しています。同じところばかりに行くと、「またか」みたいな人もいると思うので…』

(「BRODY」2016年6月号/白夜書房)

『…正直、「私をセンターにして大丈夫なの?」「乃木坂46がとんでもないことになっちゃう」って思ってました。申し訳ないって気持ちが大きかったです。それに、私がセンターになることで、絶対にイヤがる人もいるわけじゃないですか。怖かったですね』

(「乃木坂46物語」/集英社)

そういう在り方は、子どもの頃からだったらしい。というか、子どもの頃の方がさらに酷かったと言えるかもしれない。

『正直、中学時代、何をしていたか覚えていないくらいです。男子ともしゃべらないし、「話しかけないでください」っていうオーラを出してたと思います。話しかけられても、相手の顔を見れないんですよ。目が合っても、すぐにサッてなっちゃうタイプ。クラスに男女関係なく、誰とでも話せるコがいたんです。そのコは、…私とも仲良くしてくれてて、すごく憧れていました』

『それに私の中学校時代って、本当に何も楽しいことがなかったんですよ』

(前出「乃木坂46物語」)

乃木坂46は西野七瀬に限らず、自己評価の低いメンバーがとても多い。そういうメンバーが多くいるからこそ西野七瀬も受け入れられているし、乃木坂46だからこそ西野七瀬はトップアイドルになることが出来たと言えるだろう。人見知りで自己主張が苦手である彼女が、他のアイドルグループの中で人気を獲得できるイメージを掴むことはなかなか難しい。

西野七瀬に対しては「守りたくなるような雰囲気を感じる」という話をよく耳にする。これも、彼女の「弱さ」から醸し出されていると言っていいだろう。実際に僕も、西野七瀬が時折見せる表情から、このまま消えてしまうんじゃないだろうか、というような儚さを感じることがある。だから、自分が守ってあげなければ、という気持ちになることもよく分かるし、それが人気に繋がっているというのもとても良くわかる。

しかし当然ではあるが、ただ「弱い」というだけで人気が出るはずもない。西野七瀬の中には、「弱さ」以外の何かがある。しかし、それをきちんと捉えるのがとても難しかった。

西野七瀬の「強さ」の発露

西野七瀬が「弱さ」と共に兼ね備えているのが「強さ」だ。そしてこの「弱さ」と「強さ」が絶妙なバランスを保っていることで、西野七瀬のあの雰囲気が醸し出されるのだと感じる。

西野七瀬の「強さ」は、思考や妄想などに発揮される。

『私は「求められていること」が分かってないので、自分が思うようにずっとやってきたという感じなんです』

『誰かが「こうしたほうがいい」といってくれるわけじゃないので、全部自分で決めて、自分で「これがいい」と思ったやり方を選んでいって。どこかで否定されていたかもしれないけど、その声は私に届いていなかったから』

(「EX大衆」2017年1月号/双葉社)

こういう発言は、「弱い」西野七瀬のイメージとはかけ離れている。控えめに言っているが、この発言から見えてくる西野七瀬は、とても「強い」。

もし、西野七瀬が「弱い」側面しか持っていないとすれば、自分の言動や進むべき道について誰かに相談していてもおかしくない。しかし実際は、この発言から分かる範囲では西野七瀬は誰にも相談しないで決めているようだ。それは、「相談しない」のではなく「相談できない」のだという可能性もあるが、僕は「相談しない」のだと思う。僕の考えでは、まさにこういう場面でこそ西野七瀬は「強さ」を発揮できると考えているからだ。

また、こんな発言もしている。

『2、3年前にほかの仕事でも金魚を使っていたんですけど、いまでも「どうなったんだろう」と思い出すことがあるんです』

(「EX大衆」2016年9月号/双葉社)

『ありえへんことを想像するのが好きなんです。たとえば、そこのビニール袋に光が反射している部分がいくつあるんだろうって数えるとするじゃないですか。そのうえで、いまの瞬間に同じことを考えているのは何人いるんだろうって』

(「乃木坂派」/双葉社)

西野七瀬の思考は、とても自由だ。何にも制限されていないように思える。そして、この自由度は一つの「強さ」だと僕は感じる。

以前「アナザースカイ」(日本テレビ系)に彼女が出ているのを見たことがある。景色のいい場所でイーゼルを立てて絵を描いていたから、てっきり風景を描いているもんだと思っていたら、ちょっと前に見たカメレオンの絵を披露して驚かされたことがある。こうしなければならない、こうでなければならない、というような発想から解放されているように見える彼女は、「思考の自由度」という「強さ」を持っているのだと思う。

『「変わってる」と思ったことはなかったんですけど、「普通にできない」ことには悩んでました。まわりの女子と好きなモノが一緒じゃないとか、合わないとか、小中学生の時はよく思ってました。かといって、「クラスの端っこにいたい」というわけでもなくて。いま思うとしょーもないんですけど、中学生ってけっこう残酷じゃないですか』

(前出「EX大衆」2016年9月号)

この発言からは、自分の思考を大事にしてそれを手放さない「強さ」を感じる。他人と関わることを優先して自分の思考を周りに合わせるというやり方もあったはずだろう。しかし彼女はそうしなかった。そして最終的には、「普通にできない」ことを「強さ」に変えてしまった。

『高校生の時の私のままで生きていたら、いまごろ苦労していたと思います。乃木坂46に入ったことでプラスに変えることができたんじゃないかな。「普通にできない」ことが個性になって、「そこがいい」と思ってくれる方もいるのはよかったですね』

(前出「EX大衆」2016年9月号)

西野七瀬には、外からは見えにくいが、確実に「強い」部分があるのだ。

連帯が生む「弱さ」、孤独が生む「強さ」

それでは、この「弱さ」と「強さ」はいつどのように発揮されるのか。僕はこう考えている。

他人と関わらなければならない時に「弱さ」が発揮され、一人でいられる時に「強さ」が発揮されるのだ、と。

『メンバーも一緒ですね。仲良くしてもらっているけど、でも、乃木坂46以外の場所ですごく仲がいい存在の子がいるのを知っているので。そういうのをいろいろ気にして距離を置いてしまうというか…。でも、やっぱり私にはそこしかなくて。乃木坂46じゃないところを見ても、誰もいないんですよ』

(前出「BRODY」2016年6月号)

誰かと関わる時は、「弱く」なる。

一方で、西野七瀬が乃木坂46のオーディションを受けた時のこんなエピソードがある。

『歌は、新垣結衣さんの「赤い糸」を歌いました。モニターに歌の歌詞が出るんですけど、最終審査の前にスタッフさんに「あまり歌詞を見ないほうがいいかもね」って言われたんで、「秋元さんの顔を見て歌おう」と思ったんです。そしたら、歌詞を間違いまくりました。でも、自分の中で歌詞を作って歌ってたんですよ。堂々と歌ってたから、誰にもバレてなかったと思います』

(前出「乃木坂46物語」)

一人で出来ることには「強く」いられる(人前で歌うことは、厳密には一人で出来ることではないかもしれないが)。

こういう見方をすると、西野七瀬を少しは理解しやすくなる。

例えば西野七瀬がインタビューなどで沈黙する場面。見ている側は、「喋ることが思いつかないのだろう」と思う。しかし、そうではないのかもしれない。思考に「強さ」を発揮する彼女は、喋るべきことは思いついているのかもしれない。しかし、それを表に出すことは他人と関わることだから「弱く」なって躊躇してしまう。この発言をしてもいいのか悩んでしまう。そういうことではないか。

しかし、それは決して悪いことではない。西野七瀬が思考に「強さ」を発揮できるのは、他人とあまり関わりを持とうとしなかったお陰だろうと思うからだ。友達がいない、とよく発言する彼女は、頭の中で考えたことを外に出す機会が、そうでない人に比べてほとんどなかった。だからこそ、外側の影響を受けずに、思考の純粋性を守ることが出来たのではないかと思うのだ。

一方で、西野七瀬のアイドルとしての葛藤もまた、この点に凝縮されている。今まで他人に明かす機会のなかった思考を、アイドルとして表に出すことが求められるからだ。彼女にとってそれは「普通にできない」ことだった。しかし彼女はそのやり方を少しずつ身につけていったのだろう。それは、「笑顔」に関するこんな発言からも類推できる。

『私、最初の頃は全然笑えなくて。笑顔も1パターンしかなかったというか、自分の中での概念的に笑顔ってひとつだと思っていたので。でも、そうじゃないんだ、笑顔にはいろんな種類があるんだっていうことが乃木坂に入ってわかったんです。それがわかってからは、笑顔だけじゃなくて表情も豊かになったねと言われるようになりました。たぶん昔に比べたら、感情をそのまま表に出しやすくなったのかも』

(「別冊カドカワ 乃木坂46 Vol.3」/KADOKAWA)

西野七瀬は、自身の「強み」である思考を少しずつ表に出すようになった。そうすることで、「弱さ」と「強さ」が程よいバランスで混じり合っていったのだろう。「人に見せなくてもいい部分は強い。でも、人に見せなくてはいけない部分は弱い」という在り方が、結果的に彼女の魅力に繋がっている。僕はそんな風に考えている。

以前僕は「西野七瀬は表情で語る――乃木坂46のMV集に見るその魅力」という記事を書いたことがある。その中で、「MVの中の西野七瀬は、黙っていても存在感に溢れている」というようなことを書いた。これも「弱さ」と「強さ」のバランスで説明できるかもしれない。

MVは、他人と関わるもの。だから当然、「弱さ」が出ることになる。しかし、MVの西野七瀬の役柄は、彼女自身と同じくどことなく孤独を感じさせる。だからこそ彼女はMVの中で、一人でいるという意識も持てるのではないか。一人でいるが故の「強さ」が滲み出てしまうのではないか。
僕が見ている限り、普通は西野七瀬の「弱さ」と「強さ」が同時に発揮されることはほとんどない。当然だ。「弱さ」は他人と関わる時、そして「強さ」は一人でいる時に発揮されるのだから相容れるはずがない。しかしMVにおいては、両者が奇跡的に同時に発揮されるのではないか。だからこそ、MVの中の西野七瀬にこれほど惹かれるのではないだろうか。

「弱さと強さの奇跡的なバランス」説の欠陥

こんな風にして、西野七瀬をうまく捉えられた気になっているのだが、どうしても彼女の性質でうまく組み込めないものがある。それが「負けず嫌い」だ。

その最も有名な話が、秋元真夏とのエピソードだろう。

『…なんか、もう心がぐちゃぐちゃでした。スタッフさんに取り押さえられた後は、「頭を冷やせ!」って言われてずっと座らされてました。今思うと…福神から落ちちゃったけど、選抜には入ってたわけだし、「そんな簡単じゃないんだよ!贅沢だ」って思うんですけどね。そのときは心が完全にダークになっちゃってたんです。それから、真夏とは一切しゃべれなくなってしまって。ほかのメンバーが真夏と話していても、なんか…わだかまりがありましたね』

(前出「乃木坂46物語」)

乃木坂46に加入するも、活動をする前から活動休止を余儀なくされた秋元真夏が、復帰直後の4thシングルで福神に選ばれた。同じタイミングで福神の肩書を失くした西野七瀬は、秋元真夏と長いことギクシャクした関係だったという、有名なエピソードだ。

『私、乃木坂46に入ってから、じぶんが負けず嫌いだってことを知ったんです。今でもですけど、基本、争い事は嫌いなんです。でも、負けると悔しいんですよ。悔しいから、それがイヤで、ずっと争いを避けていたのかもしれません』

(前出「乃木坂46物語」)

僕の中でこの「負けず嫌い」という部分が、どうしてもうまく組み込めない。秋元真夏との関係がギクシャクしていたことについては、西野七瀬の「弱さ」の部分で説明できるだろうからいいのだけど、そもそも何故「負けず嫌い」という性質を持っているのか、という部分がうまく捉えきれないのだ。だから、ここまで長々と説明してきた「弱さ」と「強さ」のバランス説は間違っているのだろう。

「乃木坂46」というアイデンティティ

ところで、他人と関わると「弱さ」が出てしまう西野七瀬は、「乃木坂46」という大人数のグループをどう捉えているのだろう? そのことがわかる、北野日奈子のこんな発言がある。

『いまは個人の仕事が増えてる分、グループへの想いが薄まっているんじゃないかと疑ってしまう時があるんです。乃木坂46が頑張る場所だと思っている自分にとって、その中身が薄くなるのは怖くて。そんなことを話すとスタッフさんからは「なーちゃんと生駒ちゃんはグループに対する想いが強いから大丈夫」と言われるんですよ』

(前出「EX大衆」2017年1月号)

この発言からも滲み出ているが、西野七瀬はアイデンティティの核を「乃木坂46」に置いているメンバーだ。

『最近、変わってきたっていうか、感じるようになったのは、ソロのお仕事が増えてきて、メンバーのみんなとちょっとでも会えなかったりすると寂しくて。久しぶりにただ話してるだけで楽しいんですよ』

『「乃木坂46は曲が良いね」って言っていただくことが多いんですけど、曲を良くしているのはメンバーだと思うんです。メンバーみんなが「乃木坂ってこういうことだ」って理解して行動してると思ってて。それは歌もダンスも、普段の態度も、舞台での動きも。頭で考えてないっていうか。身体で理解して、みんなが同じ方向を向いてるなって思います』

(「乃木坂46×プレイボーイ2016」/集英社)

既に引用したが、「乃木坂46じゃないところを見ても、誰もいないんですよ」と語る彼女は、「うーん。基本的に将来には不安しかないんですよ。乃木坂46を卒業しても何をしていいのか分からないなぁってずっと悩んでいて」(前出「EX大衆」2016年9月号)と不安を覗かせる。

乃木坂46だからこそトップアイドルになれたという印象を与える彼女が、乃木坂46を離れる日が来たらどうなるのか。全然想像が出来ないが、その想像の出来なさもやはり彼女の魅力になってしまう。「私が表舞台からいなくなっても、どいやさん(※筆者注:西野がデザインしたキャラクター)には頑張ってほしいんです」(「日経エンタテインメント! 2017年2月号」/日経BP社)などと発言してしまう彼女だが、誰にも真似出来ないその特異な存在感で、乃木坂46を離れた後も活躍して欲しいと思う。

『未来…まったく想像できないです。でも、ずっと自分が嫌いで泣き虫だった、あの頃の自分みたいなコがいたら、乃木坂のオーディションを受けてほしいなって思います』

(前出「乃木坂46物語」)

西野七瀬こそ、「君の名は希望」と言いたくなるような、物語を持ったアイドルだ。捉えきれない魅力をもった彼女がこれからどう変化していくのか。とても楽しみでならない。

筆者プロフィール

黒夜行
書店員です。基本的に普段は本を読んでいます。映画「悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46」を見て、乃木坂46のファンになりました。良い意味でも悪い意味でも、読んでくれた方をザワザワさせる文章が書けたらいいなと思っています。面白がって読んでくれる方が少しでもいてくれれば幸いです。(個人ブログ「黒夜行」)

COMMENT

  • Comments ( 9 )
  • Trackbacks ( 0 )
  1. By 等身大の自分

    とても共感しました!

  2. 推しの方と話すとよく出てくのがグループ愛と強さ
    本人だけを流し見していると中々見えてこないのが歯痒い所ですが
    他のメンバーのインタビューや、本人をじっくり見る事で見えてくる様な事が多いので
    真実につながってるのかなぁって思います

  3. 僕は「乃木坂46」について人と話すことがほとんどないので、
    他の人の視点から全体を見ることは少ないですけど、
    やっぱりそれでも、グループ愛とか強さみたいなものはよく感じます。
    そのまとまりが、今の「乃木坂46」の強さになったんでしょうね~

  4. なぁちゃんとは初期の頃から何度も握手して会話してます。彼女の不思議な魅力を文字で表すのは難しいけどかなり共感しました!
    まいまいが聖母なら、なぁちゃんは天使のような存在。実在する事が奇跡だと思って握手会場を離れます笑

    • コメントありがとうございます!
      僕は西野七瀬さんを直接見たことはありませんけど、画面越しに見ていても凄い存在感だなと思います~

  5. By はじめの一歩

    「他人と関わると弱い」という捉え方が出て来てしまう辺りに、基本的な知識の不足を感じてしまいました。
    だってそんな事言ったら、2回目以降のプリンシパルはどうなんだ、って事になるんじゃないでしょうか?
    他人と役を争う場合には、弱さが出て来ないとでも?

    • コメントありがとうございます!
      基本的な知識不足はその通りです。ファンになったのは割と最近ですし、基本的に乃木坂46は雑誌とテレビでしか見ないものでして。
      ただ、こういうにわかみたいなやつでも好きに記事を書いていいんだ、と思ってもらえたら、もっと色んな意見が出て面白いかな、とも思ってたりします~

  6. 面白く読ませて頂きました。分析がすごい!最後の文章が真理を突いている気がしました。「捉えきれない魅力をもった彼女がこれからどう変化していくのか、とても楽しみでならない。」十代の女の子の心は矛盾で出来ています。まして芸能界という世界で、普通の女の子の心には大きすぎる負荷の中で生きている彼女。迷いながらも、これからも良い意味で変わって行ってくれると思います。

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