乃木坂46に加入する前の彼女のことを知っているわけでもないのに、僕はこう思う。乃木坂46に入って、一番変わったのは、西野七瀬だろう、と。
映画『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』公式サイト
僕は初期の頃から乃木坂46を追いかけていたわけではないから、最初の頃の西野七瀬のことは、映画「悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46」(2015年)の中で描かれていたものか、あるいは時々「乃木坂工事中」(テレビ東京系)で流れる過去の映像ぐらいでしか知らない。しかし、その断片的な情報だけからも、彼女の弱さが伝わってくる。本当に、アイドルとして立っていることが限界なのではないか、僕らが見ている今まさに目の前で、糸が切れて崩れ落ちてしまうのではないか。そんな雰囲気を感じさせるような人に僕には感じられた。
今でも彼女は、儚さを身にまとった形で佇んでいる。あるインタビューの中で若月佑美が、「西野七瀬は骨格からして儚い」と言っていたが、確かに西野七瀬という存在全体から、どことなく壊れてしまいそうな儚さが漂う。しかし今は、そんな儚さの中にも強さも感じられる。その変化は、僕には劇的なものに感じられる。
自身の変化は、本人も自覚しているようだ。
「5年前の私に、『そんなにビビらなくていいんだよ』って言ってあげたい(笑)。挑戦することが嫌いだったけど、結果を知りたいなら挑戦するしかない。そう思えるようになったかな。経験しないと成長できないから」(「FLASHスペシャル グラビアBEST 2017年早春特大号」/光文社)
「確かに、6年前にグループに入ってから鍛えられた部分はあるかもしれません。今のメンタルで昔に戻ったら楽勝やんなって(笑)。最近になって、やっと『まずは楽しもう』と思えるようになってきたんです」(「ダ・ヴィンチ」2017年10月号/KADOKAWA)
かつて僕は、「アイドルとは、臆病な人間を変革させる装置である」という記事を書いたことがある。まさに、その装置としてのアイドルというものの機能が、西野七瀬を激変させたのだろうと思う。
うまく想像は出来ないが、もし彼女がアイドルではなく、歌手やモデルを目指して活動していたとしたら、ここまでの変化はあり得ただろうか、と考えてしまう。アイドルという、過酷でしんどくて、それでいて様々なことにチャレンジ出来て、メンバー同士で足りないことを補い合いながらファンに希望を与えることが出来る存在だったからこそ、西野七瀬は今のような形でいられるのだろうと思う。
昨年11月に行われた東京ドームのライブで、西野七瀬はセンター経験者の一人として、こんなスピーチをした。
「私はもともと自分のことが全然好きじゃなくて、自信も持てないし、おもしろいことも言えないし、アイドルらしくないし、そういうところが嫌で、必死に頑張ってたころもあったんです。自分らしくもないけど、『こうした方がいいかな』とやっていた時期もあったんです。でも、6年やってきて、無理に自分らしくないことをしなくても、それでも好きだと言ってくれる方がいるから、素のままの自分でいいんだなと思わせてくれて…。そこから気が楽になって、そのままの自分で楽しんで活動できています」(「月刊AKB48グループ新聞」2017年11月号/日刊スポーツ新聞社)
「自分で嫌だなと思っていたり、コンプレックスに感じているところを好きと言ってくれたんです」(「2017東京ドーム公演記念 乃木坂46新聞」/日刊スポーツ新聞社)と言ってもいるが、彼女にとってはそういう経験が変化のきっかけだったのだろうと思う。僕も基本的にはネガティブな人間なので分かるが、自分の言動を悪く捉えたり、周囲の誰かを傷つけてしまっているのではないかという不安は絶え間なくある。アイドルであれば余計にそうだろう。さらに、「きっとこんな振る舞いが望まれているんだろう」という思考と、「でもそんな風には振る舞いたくない」という思考とがぶつかり合って、うまく制御出来なくなってしまうに違いない。
けれど、アイドルとして人前に立つ以上、常に何かを表に出していかなければならない。時には、本人としては不本意な言動も出てしまうだろう。しかし、それらを受け容れてくれる人がいる。そのことが、自信に繋がっていく。
アイドルという存在として立っているからこそ、それらの不本意な言動はうっかり表に出てしまう。アイドルになる前の西野七瀬であれば、そんな言動を人前ですることはなかっただろう。だからこそ、受け入れられるかどうかは彼女の頭の中の判断でしかなかった。アイドルとして、否応なしにそういう言動を晒さざるを得なくなったことで、彼女は自分を認められるきっかけを得られた。
とはいえ、彼女は、自分の本質は変わっていないと語る。
「ジメッとした、根底にあるもの(笑)。ネクラなのは変わってないですね。昔はネクラなのをむき出しにしてて、周りの人がウザいって思うくらいにネガティブでした。でも自分のことを否定的に言い過ぎるのは周りが気を遣っちゃうし、困っちゃうなって反省して、気をつけるようにしたんです。笑顔でいたほうがいいなって。それから徐々に根っこにあるネクラな部分を周りを覆っていって、むき出しのままでいることはなくなりました」(「OVERTURE」No.11/徳間書店)
「ネクラ」であることに関しては、同じ時期に受けた別のインタビューでも「その部分を年々見せないようにはなってます。口角を上げて笑顔でいると楽しくなることに気がついたんです」(「EX大衆」2017年7月号/双葉社)と話している。根暗な部分を隠すのがうまくなった、ということのようだ。まあそうだろう。そして、西野七瀬がこんな風に振る舞うことが出来るということが、乃木坂46というグループの特殊さを表しているようにも感じられる。
例えばアイドルグループには、メンバー同士のライバル心や競争心が激しいところもあるだろう。そういうグループではそもそも、西野七瀬のような前へ前へと出ていかないメンバーの言動が拾われることは少なくなると思う。否応なしに人前に晒され、不本意な言動がうっかり表に出てしまうことで、こんな自分でも大丈夫なんだと彼女は認識出来るようになったのだから、言動が拾われる機会が少ないグループだったら彼女は輝けなかっただろう。
また、競争心が強いグループの場合、メンバー同士がそこまで仲良くない可能性も高まるから、彼女がメンバーに対して「自分のことを否定的に言い過ぎるのは周りが気を遣っちゃうし、困っちゃうなって反省」するようなことも少なかったかもしれない。乃木坂46は、少なくとも外から見ている限りにおいては、メンバー同士の仲が本当に良さそうに見える。そういうグループだからこそ、西野七瀬は、自分のネガティブを表に出さない方がいい、と判断できるようになったのではないかと思う。この点もまた、乃木坂46だったからこそ、という感じがする。
本質は変わらないまま、乃木坂46という特殊な雰囲気を持つグループだからこそその存在が受け容れられた西野七瀬は、主演を務めた映画「あさひなぐ」(2017年)で演じた東島旭と近い部分を問われて、こう答えている。
「自信がないところですね。常に劣等感を感じているし、みんなよりもできないっていうことを当たり前に受け止めている。そして、旭ちゃんと同じように“強くなりたい”と思っています」(「7ぴあ」2017年9月号/ぴあ)
「“強くなりたい”と思っています」という発言に、西野七瀬の強さを感じる。「強さとは?」と問われて、彼女はこんな風に答えている。
「私が思う強い人は、何事にも動じずに逃げない人。私自身、強くなりたいって思っていた頃より、今の方が強くなれたと思うんです。そう言えること自体、成長できたのかなって思うし、強くなったんだと思います」(前出「7ぴあ」)
なんというのか、西野七瀬からこんな発言が出てくるということ自体、なんだか感慨深ささえ感じさせられる。きっと彼女にも昔から、内に秘めた強さはあったのだろう。秋元真夏の活動復帰で入れ替わるようにして福神から外れてしまった際のエピソードなどはそんな強さを感じさせるし、自身でも「負けず嫌いだと気づいた」というような発言を過去にしている。とはいえその強さは、彼女を覆い尽くすような圧倒的な弱さによって見えないままになっていた。
乃木坂46として活動していく中で、色んな理屈や感情から、自分を覆っていた弱さを少しずつ剥がしていって、内に秘めた強さが表からも見えるようになってきたのだろう。その認識が、先の発言に繋がった。初期から追いかけていたわけでもないのに、その変化には感慨深い気持ちを抱いてしまう。
しかし西野七瀬の変化は、あくまでも「アイドル・西野七瀬」に限られるようだ。
「私も9割は通販だよ(笑)。店員さんとうまいことコミュニケーションがとれないから」(前出「EX大衆」)
「だから、3期の子に対してそんなに存在感を出さずにいて、無理やり距離を縮めようとも思わない。そもそも自分から何を言えばいいのか分からないので、自分がやるべきことをやるだけなのかなって。自然な時間の流れの中で少しずつ話せるようになればいいかなと思ってます」(前出「EX大衆」)
ファンの前に立つ場から離れてしまうと、やはりまだまだ自信のないネガティブな自分が強く出てしまうようだ。まあ、個人的には、その方が安心な気はする。そもそも人間は、そう簡単には変われないと思っている。無理にすべてを「アイドル・西野七瀬」に寄せすぎてしまえば、全体のバランスが取れなくなってしまうだろう。西野七瀬は、乃木坂46をあまり知らない人や、ファンになったばかりの人にも知名度が高い。そういう意味で、「アイドル・西野七瀬」としてはネガティブな部分を表に出しすぎない方がいいとは思うが、そうでない場なら、いくらでも緩めてあげるのがいいだろう。
その点において、僕が好きなのが、西野七瀬の「スイカ(乃木坂46内の仲良しグループ)」メンバーとの関わり方だ。
例えばプライベート旅行で香港や沖縄に出かけた際、他のメンバーが買い物をしたりプールで遊んだりしている間、彼女は皆の荷物番をしているという。
「最初は『ノリ悪いって思われてないかな?』って考えたこともあったけど、それをスイカのみんなは気にしないし、私も『全然見とくよ~』って言えるんです。普段だったら『わたしも一緒に行った方がいいのかな?』って思うけど、そういうことを考える必要がなくて、お互いのしたいことをすんなり受け止め合えるんです。
―バランスがいいんですね。
みんなのほうから『待っとく?』って聞いてくれるから、わたしも『じゃあ待ってる』って。そう言えるから、一緒にいて楽しいんだと思います」(前出「OVERTURE」)
このエピソードを読んだ時、あぁ良かったな、と思えた。西野七瀬は乃木坂46に入って正解だったな、と。今西野七瀬は、アイドル界でも最強に近いぐらいの人気を得ていると僕は思う。そんな彼女に対して、「待っとく?」と言える人はまあいないだろう。西野七瀬をよく知らない人だけじゃなく、ファンや周囲の人間も、「荷物なら私が見とくから一緒に楽しんできな」みたいなことを言ってしまうだろう。
しかしそれは、彼女にとってはありがたいことではない。
「ただ、『なーちゃんを外に連れ出してくれて、かりんちゃんに感謝しなきゃ』と言うファンの方もいるんですけど、私は別にそういうキャラじゃないというか(中略)ひとりでいるのが好きで楽しめてるから、そんなに可哀想だと思わなくても大丈夫なのに」(「EX大衆」2017年3月号/双葉社)
メンバーは、そんな西野七瀬のことを分かっているからこそ、彼女にとって最善の選択肢だと分かっていて「待っとく?」と言えるのだし、彼女もそれを素直に受け取ることが出来る。彼女にとっては本当に、理想的と言える環境だろう。
さて、そんな西野七瀬はこれからどうなっていくだろうか。「これからここを変えていきたい、と思うところは?」と聞かれて、彼女はこんな風に答える。
「うーん…今はそんなにないんです。あえて変えようとは思わずに、流れに身を任せようと思ってます(笑)」(前出「OVERTURE」)
西野七瀬らしい返答だし、彼女の振る舞いとしてはそれが正解だろう。その時々の状況次第で、必要だと思う変化をしていけばいい。
そんな彼女は最近、ファン心理が分かってきたという。
「ゲーム実況もハマッたりすると数年前の動画も見るんです。おかげでファン心理が分かってきました。握手会で『遡って最初のブログから読みました』という方がいて、『あれだけの量を読んでくれたんだ!』と驚いて『キャラが迷走していた時期もあるのに』と思ったけど(笑)、いざ自分がファンになると見てないモノはないようにしたい気持ちが出てくるんですよ。ファンの方が『アイドルをやっててくれてありがとう』『やめないで』と言う気持ちがよく分かります」(前出「EX大衆」3月号)
自分自身の実感としてこういう感覚を持つことが出来るようになった彼女は、益々アイドルとして輝きを増していくのではないかと思っている。
私は西野は「君の名は希望」のあたりから少しずつ変わってきたとおもいます。
結成からの1年間をふりかえる企画を乃木どこでやったときは「きれいなまいやんに話しかけられない」なんて、本当に気弱だったのに。サプライズで高校の卒業式に「君の名は希望」をうたいに行ったとき、恥ずかしがってなかなかのれない高校生たちに舞台上から、笑顔で手拍子を促すなぁちゃんをみて「こんなこだったっけ?」とおもいました。その2~3カ月後にはプリンシパル公演に向けての「(10役を)全部やりたい」発言。そして、本当に10役を制覇あのころなぁちゃんは劇的に変わっていったとおもいます。
「君の名は希望」で、バック8(3列目の8人)のセンターに西野と若月がいました。ダンス&リップバージョンMVの終盤で2階の一番前に立った2人は本当に輝いていました。あの時、私はいつか西野&若月のダブルセンターを見たい!とおもいました。西野は一年後に本当にセンターになり、若月は舞台女優として飛躍していきました。
何かと批判される乃木坂運営ですが、メンバーの起用法は本当に見事だとおもいます。結成時の暫定選抜にもはいれず、乃木どこ第1回の放送にも出演できず、お見立て会での人気もふるわなかった西野をデビュー曲で選抜メンバーに起用し、3rdシングルでは七福神、カップリングの「音の出ないギター」では若月と共に西野を中心に据え、4th、5thでは後ろに下げたものの、だんだん前へ出して西野の存在感をほどよいペースで上げていったのは見事としか言い様がありません。
そして、何より「今は輝いていないが、将来輝く原石」を何人も見いだした眼力は素晴らしいですね。
合格発表時点で、ルックスがある程度出来上がっていた3期生と違い、1期生はアイドルとは思えない野暮ったい雰囲気でした。ギャル風だった西野やオーディション開始時には12歳でけっこう地味だった飛鳥ちゃんをスターティングメンバーとして選んだ眼力は神がかり的だとも思えます。
なぁちゃんが世に出るには乃木坂46しかなかった。
この奇跡のような出会いに感謝します。
コメント、ありがとうございます~。
僕は本当に、乃木坂ファン歴は全然浅いので(「君の名は希望」の時は、まだ乃木坂を知らなかったと思います。たぶん)、西野七瀬に限らず、他のメンバーの変化もリアルタイムで追えているわけではないんですよね。あくまでも、インタビューでの発言から読み取れることだけで文章を書いているので、やはり実際にリアルタイムで見ている人の感覚には勝てないなぁ、と思います(笑)
とはいえ、やはり西野七瀬は、よくぞここまで変わったな、という印象は凄く強いです。生駒里奈を始め、乃木坂46には激変したメンバーが多くいると思いますけど、西野七瀬の現在の半端ではない人気と合わせて考えた時、その変化差みたいなものは驚くべきものだな、と。
本当に、後々伸びていくメンバーを見出して、絶妙に打ち出していく感じは上手いですよね。もちろん、運的な要素もたぶんに絡んでくるんでしょうけど、乃木坂じゃなかったらきっと輝けていないだろう女の子たちを、乃木坂ならではの形で表に出していく感じは、良いなって思います。西野七瀬とか齋藤飛鳥みたいな、私が私がみたいなメンバーじゃない子が前にいることで、乃木坂というグループ全体の雰囲気も他のアイドルグループと差別化されますしね。
色んなメンバーの記事を書いてますが、僕は齋藤飛鳥が一番好きなので、よくぞ齋藤飛鳥を見つけてくれた、と運営の方々に感謝しております(笑)