Nogizaka Journal

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『橋本奈々未=ダメ人間』という捉え方〈後編〉

インタビューなどで橋本奈々未が放つ言葉に惹かれることは多い。僕だけでなく多くの人がそこに、知性や独特の感性を感じ取るはずだ。乃木坂46の一員としての役割を果たしながら自分のスタイルを崩さず、アイドルという枠に囚われない佇まいを感じさせる在り方は、橋本奈々未の魅力の一つだ。しかし、彼女のインタビューを幾度も読むことで、彼女が他者からの認識に違和感を覚えていることを知るようになった。

例えば秋元真夏の発言からは、自分がどう見られるかを誘導しているような印象を受ける。さらに、求められる在り方に自分を寄せていくようなイメージもある。それはそれで、彼女が選んだアイドルとしての一つの在り方であり、彼女が違和感を抱く余地はない。しかし橋本奈々未の発言からは、自然な振る舞いが正しい形で受け取られない困惑を終始感じてきた。そして、求められる「橋本奈々未像」を認識しつつ、彼女自身の「ダメ人間」という自己認識を積極的に語っていた。

しかし、多くの人の認識のギャップを埋めるのは容易ではないだろう。それだけ、橋本奈々未から受ける「知性」のイメージは強いのだ。今回僕は、敢えて橋本奈々未の「ダメ人間」という自己認識に沿って彼女を理解しようとする、という試みをしてみた。僕の解釈が正しい自信はないが、今回の前後編にわたる記事が橋本奈々未のギャップを埋めるきっかけになれれば幸いだ。

https://nogizaka-journal.com/archives/another-interpretation-hashimoto-failure.html

「自分のためにはがんばれない」という意識

もう一つ、橋本奈々未を「ダメ人間」として捉える軸がある。それは彼女のこんな発言から読み取ることが出来る。

『これをサービス精神と言っていいかはわからないんですけど、少なくとも私は自分のためにはがんばれないんですよ』

(「BRODY」2016年10月号/白夜書房・2016年8月23日発売)

この発言も、「ダメ人間」というキーワードで捉えることが出来る。僕もそうだが、自己認識が低い場合、そんな自分に対して全力を出すことはとても難しい。大した人間ではないダメな自分のために、自分の力を注ぐことに強く意味を見いだせないのだ。「自分のためにはがんばれない」という認識を持っている橋本奈々未が自身のことを「ダメ人間」と捉えているということが如実に現れた発言だと僕は感じる。

『私、自分自身に自信がないので、「私のどこがいいんだろう?」とか「どうして私を応援してくれるんだろう?」って思ってしまうんです。でも、ファンの人やスタッフさんが褒めてくれたり、期待してくれることによって、「この人たちは裏切れないな」っていう思いで、なんとか踏ん張ってここまでやってこれました』

(「BUBKA」2016年4月号/白夜書房・2016年2月29日発売)

アイドルとして優等生的な発言だと捉える向きもきっとあるのだろうが、本心なのだろうと僕は思う。

結果的に彼女は、自分を「押し流してくれる環境」にいることができた。乃木坂46のメンバーとして第一線のアイドルでいるというのは、無数の期待の中にいるということだ。無数の「誰か」のために、という意識は、自身を「ズボラ」とも評する橋本奈々未をうまく押し流し、自分自身の意志ではない何かが自分を動かしてくれるような感覚でアイドルという仕事を続けてこられたのではないかと思う。

「役に立てている」と実感できないジレンマ

しかし一方で橋本奈々未は、無数の「誰か」に対してこんな風にも感じていた。

『自分がいちばん活き活きして必死になれるときって、自分になにかしてあげてるときじゃなくて、ひとの役に立っていたりひとに求められていることが目に見えてわかるときなんだろうなって思ってます。このお仕事をしていると、どうしてもそれが伝わりづらくて。求めてくれるひとに自分がしたことが与えている影響って、まったく自分があまり知らないところで起こっているわけじゃないですか。だから握手会で「こういうときにこういうことを言ってくれたからがんばれました」みたいに言われるのはすごくうれしいけど、自分の中でまったくリアリティが伴ってこないんですよね』

(前出「BRODY」2016年10月号)

無数の「誰か」による期待は、数だけは圧倒的だが、ひとつひとつをはっきり認識することはとても難しい。例えば料理を作って誰かに食べさせる、みたいなことは、自分のした行為とその結果が直結する分かりやすい行動だ。しかしアイドルというのは、大昔と比べれば格段にファンとの距離は近づいたとはいえ、自分のした行為とその結果が強く結びついたと感じる機会が少ない。橋本奈々未は「アイドル」という仕事をそんな風に捉えているのだ。

『やっぱり私は、働いているべき性格というか「“働くこと”が生きていく上でのモチベーションにつながっていくタイプ」だと思っているんです。だから、お仕事が変わっても、「自分がやるべきことだ。どう貢献できるかな」と考えて、行動していくことが一番嬉しいことになっていくと思います』

(「乃木坂46×プレイボーイ2016」/集英社・2016年11月24日発売)

僕はどこかで彼女が、「裏方さんのような縁の下の力持ち的な仕事が自分には合っていると思う」というような発言をしているのを目にした記憶もある。そんな彼女の意識は、「サヨナラの意味」のMV撮影の時にも発揮されていたようだ。

『ミュージックビデオの撮影で、初めてセンターの責任を感じました。台風が迫る中、雨に降られてみんながびしょ濡れになり寒い思いをしていたので、「このシーンは雨の中で撮る必要が本当にありますか?」とスタッフさんに聞きました。もしセンターでなければ、寒いけどガマンと思うくらいだったかもしれない。センターとはグループの代表として、周りのメンバーに対してこういう風に感じるんだなと思いました』

(「日経エンタテインメント!」2017年2月号/日経BP社・2017年1月5日発売)

また、これは橋本奈々未に限らず乃木坂46のメンバーの多くが口にすることでもあるのだが、MVを始めとした乃木坂46のクリエイション全体に対しても、こんな意識を持っている。

『かわいく明るく撮ることを優先しているアイドルグループは多いと思うんですけど、乃木坂の場合、メンバーは「かわいく撮ってもらいたい」とはもちろん思うんですけど、求められるのはそこじゃなくて作品としての完成度が優先されるというか』

(「MdN」2015年4月号/エムディエヌコーポレーション・2015年3月6日発売)

「自分がどう貢献できるか」という視点で、彼女は自分の行動を捉え、そこに価値を見いだしている。

「夢も希望もない」と語る橋本奈々未

「ロケ弁が食べられると思って」アイドルになった橋本奈々未は、アイドルという「職業」に何か期待を持っていたわけではなかっただろう。そんな環境で「誰かのために」という意識で努力を続けた結果、彼女はトップアイドルになった。「ダメ人間」という認識が、自分で人生を切り開くのではなく、誰かによって求められた道を進むという意識を生んだのだろう。そしてそれを徹底したからこそ、彼女はトップアイドルになれたのではないかと思う。

しかし、アイドルとしての階段を駆け上がれば上がるほど、彼女の「役に立っているという実感を得たい」という感覚からかけ離れてしまう。忸怩たる思いがあっただろう。求められる自分と本来の自分の差も激しくなり、自分がどうあるべきか分からなくなっていきもしただろう。

『今は夢も目標もない状態なんですよ。何かしたいことがあるかって聞かれても、何もしたいことがないんです。余計に、今目の前にあることをやるしかなくて。やっていくうちに何か見つかればいいなという感じです』

(「日経エンタテインメント! アイドルSpecial2016」/日経BP社・2015年12月3日発売)

『色々なことを経験したし、様々な現実を知って、これは自分には難しいなとか、適正がないかなとか判断してきた結果、徐々に選べることが狭まってきた。その中で、自分がこれをやりたいというものに出合えれば、今頑張っている意味はあるのかなって思います。
かつての夢は何一つとしてかなっていない。でも、今もう一度そのときに戻ってやり直したいかというと、そこまでのこだわりもない。(中略)それでも家族を支えなきゃいけないという思いがあるので、早く何か見つけたいですね』

(前出「日経エンタテインメント! アイドルSpecial2016」)

夢も目標もない、と語る橋本奈々未は、「何でも出来る」「知性的だ」という「乃木坂46の中の橋本奈々未」のイメージに応えるために努力した結果、求められることはなんでもやれてしまう人間になった。「乃木坂工事中」(テレビ東京系)の放送作家の一人が、「橋本奈々未が恥ずかしいことになっているのを見た記憶がない」と語っていたが、本当にその通りだろう。しかし、器用に何でも出来てしまうが故に、「アイドル」という枠組みの中にいる限り夢も目標も見つけられない、と感じるようにもなっていったのだろう。

「新たな夢や目標を持つ」ために卒業する橋本奈々未

『めまぐるしい時間のなかで、目の前のことをやりきるのに精いっぱいになり、15年にインタビューでは「夢も目標もない」と言いました。自分自身の新たな夢や目標を持つために卒業する道を選んだのかもしれませんし、前向きに見つけていくつもりです。
漠然と「自分に正直にありたい」と思い続けて生きてきました。それが今の私にとって何よりの目標ですし、ずっと達成していきたい。それを実現するために自分の選択は間違ってなかったと思うし、今後もそれを実現できるよう、日々を過ごしていけたらいいなと思っています』

(「日経エンタテインメント! アイドルSpecial2017」日経BP社・2016年12月31日発売)

卒業は橋本奈々未にとって、自分を見つめ直す一つの機会なのだろう。「ダメ人間」であるが故に「押し流してくれる環境」に心地よさを感じる彼女だが、しかしその環境に甘んじていては自分自身が失われてしまうとも感じている。「自分に正直にありたい」という目標を達成し、またやりたいことを見つけるためにも、「卒業」というのは必要な手続きだったのだろう。一度離れてみて、結果的に彼女がやりたいことが芸能の仕事だとなれば、橋本奈々未ならいくらでも戻ってこられるだろうし(まあ、その可能性は低いと思うが)。

『この5年間で私が乃木坂46でどんな役割を果たせたかは分かりません。メンバーやファンの方が寂しいと感じてくれたり、ぽっかりと穴が開いたと感じる部分があれば、そこが私の果たせたことなのかなと思います』

(前出「日経エンタテインメント! アイドルSpecial2017」)

今回の記事は、橋本奈々未を「ダメ人間」というキーワードで捉え直すことで、彼女が抱く違和感の正体を探る、という趣旨で書かれた。その試みが成功したのかどうか、僕には判断できないが、橋本奈々未という特異な存在感を持つアイドルに対する新たな見方を提示することは出来たのではないかと思う。

求められる「橋本奈々未像」の拡散を終わらせ、「自分に正直に生きる」という目標を達成するための手続きである「卒業」が彼女をどう変化させるのか。興味は尽きないが、それを知る術はきっとない。「乃木坂46の中の橋本奈々未」という枠組みから完全に外れることで、彼女が自己認識に近い捉えられ方をされることを祈っている。

筆者プロフィール

黒夜行
書店員です。基本的に普段は本を読んでいます。映画「悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46」を見て、乃木坂46のファンになりました。良い意味でも悪い意味でも、読んでくれた方をザワザワさせる文章が書けたらいいなと思っています。面白がって読んでくれる方が少しでもいてくれれば幸いです。(個人ブログ「黒夜行」)

COMMENT

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  1. By 多摩地区在住

    はじめまして。
    ななみん推しではないけど、“恋する文学”に恋した一人です。

    「乃木坂46というグループとして行動する」という意識は各メンバーにあると思いますが、
    「部活動として行動する」意識のメンバーと、「学校じゃないんだから」意識のメンバーが
    いると、インタビューから感じられます。
    前者は述べませんが、後者は深川麻衣さんや白石麻衣さん、そして橋本奈々未さん。

    橋本奈々未=ダメ人間、ではありません。
    そう思います。

  2. コメントありがとうございます。

    「部活動として活動する」と「学校じゃないんだから」の意識の違いは、なるほどという感じがします。
    深川麻衣さんも「学校じゃないんだから」なんですね。
    それはちょっと意外でした。

    僕も、「橋本奈々未=ダメ人間」だと思ってるわけではないんですけどね(笑)
    ある種の思考実験のつもりでした。
    とはいえ、橋本奈々未自身の認識に沿った思考実験なので、そういうのもアリかなぁと。

    • By 多摩地区在住

      こちらこそ、コメントありがとうございます。

      深川麻衣さんの「学校じゃないんだから」は、別冊カドカワのインタビューで読みました。
      まぁ、自分はこの意識が弱いので、反省しっぱなしです(苦笑)

  3. 初めまして。乃木坂全体や乃木坂の番組の雰囲気が好きで、ふわっと応援しています。

    橋本さん卒業自体は寂しくてなりません。
    ファン歴も長くなく詳しいわけではありませんが、橋本さんが雑踏に消えていくこと惜しいと感じます。それが私が感じた彼女の魅力なのかもしれません。

    端から見ると器用そうな人間だけど、相当な葛藤もあったのかなと記事を読んで考えました。
    幸せになってほしいですね。

    • すいません、返信超絶遅くなってしまいました!
      コメント、ありがとうございます~。

      橋本さんは、外から見ていると「人前に立つだけの魅力に溢れた人」ですが、
      近くで見ると「人前に立っているのは不思議な人」のようですね。
      その間を埋める努力や葛藤みたいなものが滲み出て、魅力に繋がっているのかもしれませんね。
      僕も、幸せになって欲しいなと思います!

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