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「16人のプリンシパルtrois」初日公演に見るオーディションの行方

 幸運にも、過去3回のプリンシパルのいずれも初日公演を観ることが出来ました。一幕の様相は毎年変わっていて、今年のオーディションは「コント」が課題です。16役あるうち、メンバーはメインの10役からその公演で演じたい役を選んで立候補し、与えられたコントを演じてアピールしていきます。

 その中で感じたこと、これからに期待することなどをちょこっと書いてみました。本来はレポートを先に公開したかったのですが、思いのほか時間がかかるのでこちらを切り出しておきます。既に本公演を1回以上観た方や、これから観る方、観る予定のない方で若干のネタバレを気にしない方に向けた内容になっていますのでご理解いただいた上でお読みください。

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公演日報「5月30日(金)のオーディショントピックス」より

コントの台本は血肉のない骨組み

 オーディションは希望する役ごとにグループにわかれて、人数に応じた抽選箱(2~5人用。立候補者が6人以上の場合は3・3などにわかれて行う)からクジを引き、そこに書かれているコントを、台本を持って演じます。お題は人数ごとに何パターンかあるようですが確認できた限りでは2パターンでした。初日は12グループ中9グループが3人組だったため、同じお題が出るたびに客席からは「あー・・・」という声が。

 コントで演じる役はメンバーがその場で相談して決めます。大きく分けてボケ役、ツッコミ(進行)役があり、初日に限って言えば、この役選びがポイントとなりました。今年は「一番面白かったメンバーに投票してください」とあるので、ボケ役にあたったメンバーは台本に忠実に演じさえすれば最低限の評価が得られるのに対し、ツッコミ役が同じように進めると、たとえ上手であっても面白味のない演技は投票に結びつきにくいのです。ツッコミ役が台本の力だけで笑いを取れるのは1回目の特権です。

 台本自体が血肉のない、演者のアレンジを前提とした骨組みなので、台本通りツッコんだり相槌の言い回しを少し変えたくらいでは面白くなりません。2回目からは観客も出だしからオチまで知っているので起伏を作らなければ冗長になりがちです。「何々をする」の部分で自由に演じるきっかけが与えられている分、ツッコミにたいした工夫がなければボケ有利の傾向があるように思いました。

 では台本が悪いのかというと決してそうではありません。むしろ誰が演じても笑いが取れるように徹底して練り込んだ台本を与えたら、ほとんどのメンバーが満足にアレンジを加えられず、このオーディションは成立しないでしょう。お題だけ与えていきなりエチュードをやらせるのも危ないので、経験の少ないメンバーでもある程度は演じられる公平さを保ち、あそびが利くように最低限の道筋を与えたのだと思います。

一幕攻略の鍵は流れを作るか、乗っ取るか

 審査基準は昨年と変わって、配役の適性という観点が薄れています。やはりコントでどれだけ笑わせることができるのか、どんな笑わせ方ができるのかという点が評価の大部分を占めることになります。演技力も大切なことには変わりありませんがそれ単体では昨年ほど重要視されていません。ただ、いま審査で重要視されない演技力は、審査対象になる笑いにつなげるために必要です。演技力がなければキャラやセリフ(アドリブ含む)に説得力を付けられず、まわりを自分の流れに引き込めないのですから。

 特に、今回のオーディションで印象的だった例として、マキア組の中で前髪クネ男ばりのギャル男を演じた高山一実と、ルイーダ組の中で強烈なぶりっ子を演じた若月佑美を紹介します。2人とも同じ「不動産屋」のコントに挑戦しましたが、高山は彼氏(ツッコミ)役、若月は彼女役と異なる役を演じました。
 初日はボケ役に軍配があがる結果が多く見られた中で、2人は上手くキャラ付けして序盤から自分の流れに持ち込み、他のメンバーの無難な演技、薄いキャラ設定がそれをさらに引き立てる結果となりました。高山はキャラだけで終わらず、間の使い方でも好演したため相当な数の票を持っていったはずです。相手が相手なら今年のベストバウト候補でした。

 演技力だけで見たとき、決して役を勝ち取った相手に負けているわけではないというメンバーは何人もいました。ただ流れを作ったメンバーを相手に、説得力のない薄いキャラとほぼ台本通りの演技というのでは歯が立ちません。先に流れを作られたら、それに乗っかった上で主導権を奪うかまったく別の場所に上手くリードするかして流れを自分に引き寄せないと、ただ受け身でコントを進行させるためだけにいる存在になってしまいます。
 その点において初日で好演したのが、2期生で唯一16役に選ばれた、伊藤かりんです。かりんはエルザ役をめぐって、齋藤飛鳥と寺田蘭世と3人でコント「不動産屋」を行い、2人が作った流れに乗って見事に観客の注目を引き寄せたのです。結果、エルザ役を取ったのは飛鳥でしたが、あの流れを適当にあしらったり無視して自分の演技を続けていたら、かりんの名前が呼ばれることはなかったでしょう。

 公演を観ていた方は、メディア露出や人気の差からくる下克上は感じても、オーディションの内容を踏まえての波乱というのはあまり感じなかったのではないですか。

行き着く先はエチュード

 思うに一幕は初めからエチュードへたどり着くことを意図しているのではないでしょうか。繰り返しになりますが、オーディションで与えられる台本は血肉のない骨組みです。コントとはこういうものですよという例として、また事故防止のセーフラインとして台本を与え、簡単な道筋を示しているに過ぎない印象を受けました。

 少しアレンジするだけでは勝ち目がないことは多くのメンバーが肌で感じたはずです。ボケ役が有利というのも、ほとんどのメンバーがまだ台本通りに演じている、全22公演あるうちの序盤に限った話になりそうです。さらに言えば、わかりやすくするためにここではボケ役とツッコミ役があるとしましたが、はっきり言ってそんな区別はあってないようなものです。ボケ役に見えていた人が少し言いまわしを変えるだけでツッコミ役に、ツッコミ役がボケ役に変わる余地があります。

 オーディションの練習は満足にできていなかったようで、ただ台本を読んでいるだけ、はちゃめちゃなキャラ頼りというメンバーが多かったこと、笑わせるのではなく「笑われる」姿があったことは残念でした。それでもいま述べてきたことはきっと、舞台上でコントを観ていたメンバーも気づいているはずです。中には「このコントはハズレだ」なんて冗談(?)を言っているメンバーもいましたが、今日はただこなすしかなかった、でもあのセリフのところでこういうリアクションが取れるな、ここにあそびがあるな、というのは観客と同じように感じていたことでしょう。

 明日からはこの台本にどれだけ手を加えていけるかが見どころになってくると思います。もしかすると、今日観たコントの流れが最終日にはまったく見られないなんてことが起きるのかもしれません。

筆者プロフィール

管狐
乃木坂46に関する情報発信の場として、2012年に当サイトを開設・運営。ライターとしてはビジネス・エンタメ・スポーツを中心に寄稿も。ご依頼はコンタクトの専用フォームよりお問い合わせください。情報提供・取材案内もお待ちしております。

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