「乃木坂をよむ!」~プリンシパル総括前半 投票システムが生んだドラマ~

出典若月佑美のブログ『何から書いたら良いのやら。』 ©乃木坂46LLC

 先日、無事全22公演を終えた乃木坂46公演「16人のプリンシパルtrois」。今年も赤坂ACTシアターにて様々なドラマが生まれたが、本コラムでは2回に分けて今回の公演の総括を行いたいと思う。前半はその投票システムに注目して振り返っていく。

「16人のプリンシパル trois」投票の流れ

 「16人のプリンシパル」が他の舞台公演と大きく異なる点が、1幕のオーディションを見た観客が審査員となり、投票によって2幕の本編で見たい16人を選ぶというシステムであろう。2年前に渋谷PARCO劇場で行われた第1弾公演から昨年の「16人のプリンシパルdeux」では投票システムにいくつかの変更が加えられたが、今年は大きな変更点はなかった。まずは基本的な投票の流れを説明したい。

 メンバーは各公演の開演前に主要10役の中から演じたい役を選んで立候補する。1幕の舞台上で役ごとに立候補者が発表され、同じ役に立候補したメンバーでランダムに与えられるお題(台本あり)に合わせてコントを披露。観客はそれぞれの役につき「最も面白かったメンバー」を1人、全メンバーの中で最も面白かった「今日の”クィーンオブコント”」を1人選んで投票する、というのが一連の流れとなっている。立候補者が1人の場合はラッキーガールとなり、その時点で2幕の出演が決定する(ただしその場合も相方を1人選んで2人用のコントを行う)。また、ある役の立候補者がいない場合は、メンバー全員が投票対象となり、立候補した役の選考に漏れたメンバーの中から空き役の得票数が最も多い人がその役に選ばれるというようになっていた。誰がどの役に立候補したかは毎回舞台上で発表されるため、ラッキーガールになり歓喜するものもいれば、激戦区に入り落胆するものがいたり、また注目の一騎打ちが実現し会場全体が湧く場面もあった。

アンサンブルの選び方・選ばれ方

 プリンシパルの投票システムで面白かったのは、アンサンブルの選出方法が、「10役の選考に漏れたメンバーのうち得票数の多い者から順に6人」という点だった。一見10役から漏れた全てのメンバーに対してフェアな選出方法のように見えるが、実は立候補の時点でアンサンブルへの選ばれやすさというのが決まってくる。立候補者の多いグループはどうしても票が散りやすいため、立候補者が少ないほど10役に落選してもアンサンブルに選ばれる可能性は高いのである。得票数の多い者から順に選ばれるとなると、後者のほうが2幕への出演に有利と言える。

 今回、プリンシパルどころか本格的な演技に初挑戦というメンバーもいたであろう研究生は予想以上の活躍を見せていたように思う。初日から3公演連続でアンサンブル入りしたり、ポリン姫の役をつかんだ者もいた。ただ、もちろん「面白かった」から票を得たメンバーもいたわけだが、経験も無く、出演回数も限られる彼女たちがここまで選ばれたのは投票システムのおかげでもあった。研究生全体では計11回アンサンブルに選出されているが、そのうち7回は立候補者が2人であり、16役に選ばれやすい条件であった。ここで筆者が言いたいのは、研究生が2幕に出られたのは運が良かったからということではない。このアンサンブルの選出方法は、人気の面から見た番狂わせを起こしたり、今まで報われなかったメンバーが選ばれたりと、プリンシパルを盛り上げる一つの大事な要素になっているのではないかということである。

プリンシパルもつかみが肝心

 ここから1幕にしぼってその中身により深く触れていきたい。今回の1幕には3つのアピールポイントがあった。1つ目はもちろんコント。2つ目はコントを始める前の簡単な自己紹介と自己PR。そして3つ目が、投票結果が発表された後に2幕に出演できないメンバーによって行われる「明日につながるアピールタイム」である。コントに関しては後半で「笑い」という話に絡めて取り上げ、ここでは残りの2つについて先に触れておきたい。

 筆者は便宜上自己PRと書いているが、実際の公演では明確に「自己PRタイム」として区切られているわけでもなく、その内容も尺も人それぞれだった。名前と今日の意気込みを言うメンバーもいれば、役に対する思いの丈を伝えるメンバーがいたり、齋藤飛鳥のように「今日は頭の弱そうな人たちばかりなので頑張ります」なんてぶっ込むメンバーもいたりした。畠中清羅にいたっては「選ばれたらラッキーくらいの気持ちで頑張ります」なんて言ってしまうし、各メンバーがこの自己PRにどれほどの比重をおいていたかはわからない。だが、今回のプリンシパルは間違いなくこの自己PRで多くの名場面が生まれている。斎藤ちはる生田絵梨花との一騎打ちの際に言った「(生田を見て)『生まれながらのプリンシパル』、(自分を見て)『今が、革命の時』」は鳥肌ものだったし、AKB48選抜総選挙の裏で行われた公演で若月佑美が言った「私にとっての総選挙はここです」もハイライトの一つだったといえる。

 そんな自己PRで実際の票につなげることに成功したものがいくつかあった。悪の帝王ルイーダ役に立候補した白石麻衣衛藤美彩などのメンバーが言っていた「ドSな私を見せたい」という一言はファンの心をくすぐったに違いない。松村沙友理はお腹が見える衣装のポリン姫役に立候補し、「出せるものは出してしまおうと思います」と大胆なアピールを行っていた。また、伊藤万理華井上小百合が自己PRでよく言っていたのが「安定した演技力を見せたいと思います」ということだった。コントは毎回メンバーとお題の組み合わせが異なるため、クオリティーも様々である。コントが低調で選考に迷う場合、ファンに「それなら少しでもいい舞台を観るために、演技力に自信があるメンバーにしよう」という気持ちにさせたのではないだろうか。そして、毎回役に合わせてこの自己PRを作り込んでいたのが若月佑美であった。今日は「この役に立候補したのでこんな私を見せたいと思います」というのを明確にファンに示し期待感を持たせてくれていた。結局、この自己PRの時間は使いようによっては選考の一つの基準になるようなこともあれば、それだけで投票を決めてしまいたくなるような説得力をもつこともあった。

「明日につながるアピールタイム」から次の公演は始まっている

 本公演から開設された「明日につながるアピールタイム」のコーナー。選考から漏れ、2幕に出演できないメンバーが次の公演にむけて意気込みを叫ぶコーナーで、結果発表直後のリアルな感情がむき出しになるとても良い場であると感じた。涙して上手く言葉にできないメンバーもいれば、その悔しさをさらけ出すものがいたり、何も考えてないのに流れのままにマイクの前に来てしまったメンバーもいたり、ファンからの声援を改めて聴いて次の公演に切り替えるメンバーもいたりと、メンバーの様々な表情を見ることができた。

 星野みなみは前回の「16人のプリンシパル deux」で学業のため全公演欠席したが、今回の目標であった皆勤賞を達成し、22公演中16公演で2幕に出演している(うち11回がアンサンブルでの選出)。躍進のきっかけとなったのが、5月31日の夜公演で行った「明日につながるアピールタイム」だったように思う。「やる気がないように見られがちだけど、そのレッテルを剥がしたい」という一言は観客に大きな期待感をもたせてくれた。また、前回に比べて苦戦したメンバーとして中元日芽香があげられるが、彼女がこの時間で毎回やってくれた「みんなからは“ひめたん”って呼ばれてます」という決まり文句は、会場に笑いと和みと安心感を与え、自身の後半の復活にもつながった。この「明日につながるアピールタイム」もメンバーによって内容は様々だが、この場でリベンジを誓い、次の公演で実際に達成する者がいたり、星野のような例があったりしたことを考えると、この時間から次の公演の選考は始まっていたと言っても過言ではないだろう。リピーターも決して少なくない今回の公演で、2幕に出られなかったメンバーは実質自己PRの時間を2回得ていると考える事もできるのだ。

プリンシパルの原点

 こうして考えていくと、PARCO公演の頃から変わらずプリンシパルの原点はやはり「自己PR」なのである。もともとおとなしく人見知りなメンバーが多い乃木坂46にとっては当初から苦手意識のあるものかもしれないが、今回の公演を見てみると自己PRでしっかりと自分をアピールしたり、会場を盛り上げたりすることができるようになっているように思う。自分の魅せ方をわかっていることはこれからの活動においても大きな武器になりうるだろう。

 
 さて、今回は「投票システム」という観点からプリンシパルを振り返ってみた。そして次回は中身、つまり今回のプリンシパルでの「笑い」という観点から公演を振り返っていきたいと思う。

参考資料・16人のプリンシパル公式ホームページ

追記
記事のコメントで指摘いただいた通り、2点誤った箇所がありましたので訂正してお詫びもうあげます。
1.星野みなみがレッテルをはがす宣言をしたのは6月1日夜公演ではなく5月31日の夜公演でした。
2.中元日芽香が「ひめたんびーむ」を行っていたのは「明日につながるアピールタイム」ではなく、自己PRのときでした。
改めて正確な情報の発信につとめて参りますので、今後ともよろしくお願いします。

筆者プロフィール

ポップス
洋楽が好きで、「弁当少女」のOPがVampire Weekendで興奮していた類の人間です。
乃木坂46の物語や構造、楽曲について考察し、皆さんと乃木坂46をより深く楽しめたらと思っています。総合音楽情報サイト「Real Sound」にも乃木坂46のコラムを寄稿。

COMMENTS

  1. ひめたんの、「みんなからは、ひめたーんってよばれてます」は、
    明日につながるアピールタイムではなく、最初の自己PRで、毎回言ってたのでは、
    ないでしょうか。

  2. 6月1日の夜公演では星野みなみは二幕に出てますから、例のコメントは前日に言ったものですね。

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