8月で20歳になった齋藤飛鳥。雑誌のインタビューでも、それに絡めた質問をされる機会が多い。そういう中で、齋藤飛鳥の”大人観”を垣間見ることが出来る。「20歳になること」を「特別なことではない」「まだ子ども」と言う彼女は、”大人”という存在をどう捉えているのか。
「めちゃめちゃくだらないことを一生懸命やる人が大人だなと思っていて。でも、今の私はそこに対して全力になれないし、恥じらいを持ってしまうから。あと、人間関係を作っていくことを私は手間だと感じてきたけど、そこにちゃんと向き合える人が大人ですよね」(「B.L.T.」2018年11月号/東京ニュース通信社)
この発言は、僕には少し意外だった。いや、後半の「人ときちんと向き合うこと」を“大人観”として持っていることは、齋藤飛鳥らしいと感じる。僕は別に、人ときちんと向き合わない“大人”がいてもいいと思うが、人間関係を苦手だと感じている齋藤飛鳥が、それを克服して初めて“大人”になれるのだ、と感じていることは納得感がある。
しかし前半の、「くだらないことを全力でやること」を“大人観”として持っているのは、僕の中でなんとなく齋藤飛鳥と繋がらない印象がある。確かに先程の話と同様、現状で彼女は「くだらないことを全力でやる」タイプの人間ではないだろうが、しかし、そういう存在になることを望んでいると感じることはあまりなかったからだ。一人静かに本を読み、壁と向き合ったり寄りかかったりし、人が集まっているところやカメラのあるところから遠ざかってしまう、という発言をこれまでしていたが、僕はそれらを、子どもか大人かということとは関係なしに、「齋藤飛鳥らしさ」として彼女自身が受け入れているように感じていたからだ。
「まだ思い切りふざけられないですか?」とインタビュアーに問われた彼女は、こう返している。
「照れる気持ちを振り切ってふざけきったり、求められたことに全力で答えるというのは、私の性格上、大人になってからでないとできないように思います。周りに迷惑をかけないのに、めちゃくちゃスマートに遊べるって、とてもむずかしいです」(「TVBros.」2018年11月号/東京ニュース通信社)
やはりこういう発言から、彼女が「全力でふざけられる自分になりたい」と考えているようにしか受け取れない。今の自分を「齋藤飛鳥らしさ」として受け入れていると感じていた僕には、この認識はイメージから外れるものだった。
彼女がどうしてそういう“大人観”を抱くようになったのか。そのズバッとした答えはインタビューの中から見つけることは出来なかったが、こんな発言にヒントがあるのかもしれないと思う。
「―大人と接するのはお好きですか?
はい。スタッフさんを始め、年上の方といるのは心地いいですね。自分が喋るよりはお話を聞くほうが好きなので、大人の方と話しているのは楽しいです。なぜかというと、私が何かを尋ねたら、これまでの経験の中からアドバイスを交えてすぐに答えをくれますし、プロフェッショナルとしての仕事への姿勢は学びになります。(中略)学びたいという気持ちが強いんだと思います」(前掲「TVBros.」11月号)
芸能界の、しかもトップアイドルとして活動をしている彼女の周りには、まさにプロフェッショナルと呼ぶべき人達がたくさん集まっていることだろう。彼女は以前、「“こういう芸能界の裏側を見てみたいな”と考えるようになって、この世界に入ってみたいなと思ったんです(笑)」(「別冊カドカワ 総力特集 乃木坂46」vol.02/KADOKAWA)という発言もしており、アイドルになることそのものよりも、表から見えない部分がどうなっているのかに対する興味があったと語っている。だからこそ、なおさらそういうプロフェッショナルな人達の仕事には関心があるだろう。
そして、そういう人達と接する中で、彼女なりの”大人観”が生まれていったのかもしれない、と考えたのだ。ミュージックビデオの監督や衣装を作る人など、彼女が接する機会のあるプロフェッショナルの人達というのは、クリエイター的な人が多いだろう。そして僕の中で、そういう人達は、何歳になっても好奇心や遊ぶ力みたいなものを失わないでいるイメージがある。そういう姿を日々目にすることで、彼女なりの”大人観”が生まれたのかもしれない。
あるいは、乃木坂46のメンバーを見て、ということもあるかもしれない。
「個人的に昔から白石麻衣は好きです。初期からずっと先頭に立ってて、引っ張ってくれていて、自分のグループにいながらどこか遠い感じで、ついて行きたいなと思ってました。最近、一緒にお仕事させていただいたりしてからも、プロだなと思う部分はすごくある。同時に、人間的には、お姉さんだけどかわいらしい部分もたくさんあって、人としても魅力的だなと」(乃木坂・齋藤飛鳥に聞く(3・終) 「欅にいたら」とも考えるけど…/デイリースポーツ online)
発言の中で白石麻衣の名前を挙げているが、僕がテレビなどで見ている限りにおいても、白石麻衣は、あれだけの美しさを持ちながら、ひょっこりはんのネタを完コピしたり、テレビ東京系「乃木坂工事中」内のバラエティ的展開に全力を注いだりと、まさに齋藤飛鳥の言う「くだらないことを全力でやること」を体現する存在であると感じられる。そんな存在と一緒に仕事をしていることが、齋藤飛鳥の”大人観”に影響したのかもしれない。
メンバーに対する「尊敬」を持っている、と発言しているが、それは彼女の仕事に対する意識の変化から来る部分もあるようだ。
「最近、メンバーに対する感情も変わってきた気がしていて。昔はみんなが大好きで、ずっと一緒にいたいから仕事に行っていたところが大きかったんですけど、それが仕事に対する責任感が芽生えたことで、今度はメンバーに対する尊敬の気持ちが生まれた。そういう頼もしさや安心感を、一緒にいてより感じるようになりました」(「日経エンタテインメント!」2018年11月号/日経BP社)
乃木坂46に加入した当時、齋藤飛鳥はまだ中学1年生。仕事だ、と頭では理解していても、何をどう頑張ればいいのか、どこに真剣味を感じるべきなのか、分からなかったのも無理はないだろうと思う。しかし加入から7年が経ち、彼女自身はまだ自分を大人とは認めていないものの、20歳になった。後輩も入ってきて、1期生の最年少という立場から、センターも経験した大先輩として見られるようになった彼女は、インタビュアーから「『今は自分がやる番』という気持ちも?」と問われて、「そういう意識は、もちろんありますね」と、今までの齋藤飛鳥なら言わなかっただろう発言をするようになっている。
「こういう話って、ウソくさいかもしれませんけど、私は仕事がない時期とかアンダーにいた時期が長かったから、今の状況に対するありがたみは、たぶん人一倍感じる育ち方をしていると思う」(「月刊AKB48グループ新聞」2018年9月号/日刊スポーツ新聞社)
だからだろうか、彼女は「最近はお休みになるのが怖いというか。以前はこんな感覚はなかったので、これが私の最近の変化かもしれません(苦笑)」(前掲「日経エンタテインメント!」11月号)とも発言している。もちろんこれは、多くの芸能人に共通する意識でしかないのかもしれないが(他の芸能人がそういう発言をしているのを見聞きしたことがある)、しかし齋藤飛鳥の場合、そういう心持ちになったのが最近のことである、ということに大きな意味を感じてしまう。
話は少し飛ぶが、齋藤飛鳥の発言で今でも印象的に記憶しているこんな言葉がある。選抜とアンダーのどちらが良いかと聞かれた時の答えだ。
「誤解を恐れず、理想を言えば『選抜に選ばれて、うれしい私』でありたいです」(「日経エンタテインメント! アイドルSpecial 2015」/日経BP社)
これはつまり、「求められる自分を認められる私でいたい」ということだろう。そして先程の「休みになるのが怖い」という発言も、それと同じ文脈で捉えられるのだと僕は感じる。
齋藤飛鳥は未だに、
「―自分のことって好きですか?
嫌いではないですけど、好きでもないです。齋藤飛鳥が私の周りにいたら、特別仲良くしたいとは思わない(笑)」(前掲「B.L.T.」11月号)
「自分としては、現実をしっかり見たがるだけで、ネガティブだという認識はないんですけどね。着実に、地に足が着いていたいタイプです」(前掲「デイリースポーツ online」)
というような発言をするタイプの人で、僕は齋藤飛鳥の発言を比較的昔からずっと追っているが、本当にこういう部分についてはブレない。ヒロインを演じた映画「あの頃、君を追いかけた」の早瀬真愛のセリフに、「あなたは私のことをきっと美化してる」とか「好きになられて不思議な気がする」というのがあって、そういうことをファンに対して普段から言っているから共感する、という発言もしていた。「ようやくいい具合に、ちょっと疑いつつも、受け取るところは受け取る、という具合に調整できるようになってきましたね」(前掲「月刊AKB48グループ新聞」9月号)と言っているように、昔よりはマシになったという自覚はあるようだが、それでも、自分のことを低く捉えすぎてしまう(少なくとも客観的にはそう見えてしまう)のは変わっていないようだ。
しかし、先程の「休みになるのが怖い」という発言は、求められる自分を受け入れられるようになった、という大きな変化のように僕には感じられるのだ。彼女は以前インタビューで、「乃木坂46のお陰で人間になることが出来た」というような発言をしていた。乃木坂46に入っていなかったらヤバイやつになっていたでしょうね、とも言っていた。アイドルという特殊な仕事が齋藤飛鳥を現実に繋ぎ止め、また、齋藤飛鳥という特異なキャラクターがアイドルとして光り輝く原動力となるという、なんだかとても良い循環が生まれているように感じられて、勝手ながら何だかとても嬉しい。
もちろん、彼女が仕事に対して以前にも増して責任感を抱けるようになったのは、乃木坂46というグループに対する想いがあるからだ。
「私をきっかけに乃木坂46を知ってくださる方もいるだろうし、そういうときには乃木坂46の魅力を充分に伝えたいし、メンバーのことも好きになって欲しいので、重みに対しての責任感はいつも持っています。(中略)
―(笑)。ひとりじゃなく、みんなで協力して、乃木坂46の魅力を伝えているんだぞと。
そうなんですよ、乃木坂46には私なんかよりも強力な魅力を持ったメンバーがたくさんいますから!リカバリーしてくれる強い味方が何人もいるって思えるだけで、すごく楽な気持ちになります」(前掲「TVBros.」11月号)
グループを離れて一人で仕事をする機会が増えたからこその自覚だし、責任感なのだろう。齋藤飛鳥は、白石麻衣などと違って、最初から人気のあったメンバーなわけではない。自身でも発言している通り、アンダーの期間が長かった。もちろん、最初からグループの前面に立って全力で引っ張らざるを得ないような立場も、それはそれで成長を促すだろう。特に一部の3期生は、そういう期待を背負わされているのだろうし、その良し悪しみたいなものも様々にあるだろう。しかし齋藤飛鳥のように、注目されていない間にじっくりと実力を溜め込み、いつの間にか自然とグループの中心になっていく、というような成長の仕方は、最初から期待される以上に望んでも実現できないあり方であるように思うし、そのことが、齋藤飛鳥というアイドルをさらに特異なものにしているように感じられる。
彼女自身ももちろん、仕事に対する「楽しさ」を実感する機会がある。しかしそれは、やはり他の人とは少し変わった捉え方であるように僕には感じられる。
「正直に言えば、この夏、いろいろしんどかったんですけど、どうしても楽しい瞬間もあるから、死ぬほど嫌だ、って思うことはなかったというか。しんどいこととかって、やる前から想像がつくんですよ。
―どんな想像ですか?
『体も1度ボロボロになるんだろうな』とか『疲れがたまって、周りに優しくできなくなるんだろうな』とか。でも、映画を撮って、『このシーンがうまくできたからうれしい!』とか、そういうプラスの感情って、想像がつかないし、時に想像を超えてくるんですよ。その感覚が気持ちいい。だから、しんどいこともそんなに大したことないと思える気がします」(前掲「月刊AKB48グループ新聞」9月号)
この、「しんどいことは想像出来るけど、楽しいことは想像を超えてくる」という捉え方は、僕の考え方にはなかったものだが、しかし凄く共感できる。というのも、僕自身もマイナス思考だからだ。マイナス思考だと、物事が悪くなる方向への思考は実にスムーズに展開される。だから、「こういう風に悪くなる可能性がある」ということはいつでも考えているし、だから想像の範囲内に収まる。けど、物事が良くなる方向には全然思考が伸びないから、たまにしか起こらなくても、その「楽しい」があるからやれている、というのは、凄く分かるなぁ、と思う。
さて、そんな彼女はこれからどうなっていくだろうか?
「―どんな未来を思い描いていますか?
未来は何も見えてないです。昔からただただ流れに身を任せているだけで。頭で考えていたことが良くも悪くも裏切られることが多い仕事をしているので、モチベーションを維持するために目標を決めるやり方は、私には向いていないというか、“今”を見ていないとがんばれないタイプなのかなと思っていて」(前掲「B.L.T.」11月号)
こういう発言は昔からしていたし、変わっていない。未来を想定しないという生き方は、僕も同じ部分があるし、良くも悪くも想定が裏切られることの連続だから、考えても仕方ないという意識がある。もちろんそれは、ただ「待っている」わけではない。例えば彼女は、恐らく膨大な量の読書をしている。短絡的に考えれば、読書はアイドル活動にさほどプラスにはならないだろう(インタビューの際に大人顔負けの思考を展開できる、みたいなことはあるけど)。しかし読書は、確実に齋藤飛鳥の蓄積となって、今後に活かされるだろう。目標を定めて、その達成に必要な努力をする、というのではなくて、何に直結するか分からないけど自分を何らかの形で高めていく、というスタイルで、彼女は“準備”をしていると言えるだろう。
そんな彼女は最近、こんな風に考えているようだ。
「私、苦手なことをわざとやりたいタイミングが時々あるんですよね。(中略)でもそれは、挑戦とかそんなカッコいいものではなくて、なんとなく。いまは、乃木坂46のお仕事をしていることが心から楽しいのでメンバーと離れたくないですし、居心地のいい場所にいたいので全く想像できないですが、あえてすっごく苦手なことをしたいと思ったときが次の場所へ進むタイミングなのかもしれないですね」(前掲「TVBros.」11月号)
アイドルである以上、いずれ「卒業」と向き合う日が来るだろうが、彼女にとってベストなタイミングでその時が訪れればいい、と思う。
最後に、「20歳になってやったこと」を二つ引用してこの記事を終わりにしよう。
「Q10.20歳になって初めてやったことは?
A.10 お皿を洗った!(笑)」(「MEN’S NON-NO」2018年11月号付録『齋藤飛鳥BOOK 二十歳の素顔。』/集英社)
「8月に20歳になったんですけど、その直前までは『10代のうちに村上龍をたくさん読もう!』と思ってとにかく村上龍の本をずっと読んでいました。それで20歳の誕生日を迎えて、記念すべき1冊目は何にしようかと。ずっと悩んでいたんですけど、結局なんとなく手にとったのが石原慎太郎でした。
―意表をついたセレクトですね。
『完全な遊戯』です。今、まだ読んでいる途中なんですけど」(「bis」2018月11月号/光文社)
「お皿を洗う」というのは、僕が齋藤飛鳥に興味を持つようになった短いインタビュー中にも書かれていたことで、彼女らしいと思う。石原慎太郎『完全な遊戯』というセレクトは、僕も同様に非常に意表をついたセレクトだなと感じた。同世代の女性が一生読まないだろう本ばかり読んでいる齋藤飛鳥が、今後どんな風になっていくのか、益々楽しみである。
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