寺田蘭世ー子どもっぽさという弱み、その先にある”死ぬまで満足しない”という強み

僕が乃木坂46を好きになった時にはもう、2期生は加入していた。しかし、その頃にはまだ、2期生の抱えている辛さみたいなものはよく分かっていなかった。僕がそのことを少しは理解できるようになったのは、3期生が加入してしばらくしてからだ。3期生が、加入してすぐに注目を浴びるようになり、それと対比するようにして、2期生の不遇さみたいなものを雑誌のインタビューや特集などで目にするようになった。2期生は、いきなりセンターに抜擢された堀未央奈や、選抜の常連となった新内眞衣を除けば、加入してからアイドルとして大きく注目される機会もそこまではなかっただろう。また、2期生で足並みを揃えて何かをするという機会にもあまり恵まれなかったのだという。そういう中にあっても、メンバーたちは諦めず、出来ることを必死でやり続けた。

そんな2期生の中でも、個人的に一番“熱く”アイドルとして闘志を燃やしていると感じるのが、寺田蘭世だ。

「私、満足することは死ぬまでないだろうっていうスタンスで生きてるんです。(中略)今回の選抜入りはセンターまでの通過点だし、もっと言うと人生の一部でしかないんです」(「BRODY」2017年4月号/白夜書房)

これは、彼女が17thシングル「インフルエンサー」で初めて選抜入りした時のインタビューでの発言だ。なかなか強い言葉だし、寺田蘭世という小柄で可愛らしい女の子から出てくる言葉としては似つかわしくないようにも感じられるが、彼女は、この“熱さ”だけを武器に、これまでアイドルとして自分なりに闘い続けてきたと僕には見える。

「後ろのポジションだからって気を抜いたことはないし、センターの私が16人分頑張っても意味がない。それぞれが自分のやり方で頑張ることで形ができあがるのが理想なんです」(「EX大衆」2017年1月号/双葉社)

「それまでも後ろにいるからって見られてないわけじゃないし、逆に、後ろにいるから『前の人よりいいものを見せてやる』くらいの気持ちで燃えていた自分もいるので。これからも自分を貫いていけば見つけてくれる人はいると思うので、変わらず頑張ります」(「別冊カドカワ 総力特集 乃木坂46」vol.04/KADOKAWA)

加入から長いこと、アンダーとして活動していた彼女は、ポジション的にファンから見つけてもらいやすい場所にいられたわけではない。それでも、全力でパフォーマンスをしてきた、という自負を持っている。

いや、そのこと自体は当たり前のことなのかもしれない。どんなポジションであっても、全力でやるというのは、アイドルとして当然なのだろう。しかし、いくらそれが当たり前だからと言って、常にどんな時も100%やれている人などそうはいないだろう。そして常に出来ているわけではない人はきっと、ここまで強く断言は出来ない。寺田蘭世は意識的に、“常に”全力で100%やっている、という自負があるからこそ、当たり前のようにこういう発言が出来るのだ、と僕は感じる。

そしてそれは、決してアイドルとしてだけではないようだ。

「こんなことを言うと変な子って思われるかもしれないですけど、『今日を生きているだけで奇跡的で、明日が来るのが当たり前だと思っちゃだめだよね』って“中2病”みたいなことを私はよく言っていて(笑)」(「日経エンタテインメント! アイドルSpecial 2015」/日経BP社)

なるほど、そういう感覚をリアルに持っているとすれば、毎回どんな場でも全力で臨むというスタンスは、むしろ当然と言えるのだろう。

しかしとはいえ、彼女のこういうスタンスは当然、生き辛さにも繋がっていくことになる。

「(※筆者注:自分の今の立場に迷っているという話の後で)今までの自分は包み隠さずに何でも言ってきて、小さいコでも頑張っているんだっていうイメージがあったと思いますけど、最近いろんな方によく言われるんです、『妥協するのはどう?』みたいなことを」(「BUBKA」2017年10月号/白夜書房)

「いつもブログは身を削って書いているから(笑)
―ご自愛ください(笑)
もっとオブラートに包んで書いたらいいんだろうなとは思うんですけど、妥協してまで賛成してほしくないので」(前掲「BUBKA」2017年10月号)

確かに、周囲と馴染むのが難しそうな性格ではあるが、しかしそんな彼女に対し、他のメンバーは共感したり、報われてほしいと思ってくれたりするようで、そんな自分を「人間としては正しいんじゃないか」と捉えているとも発言している。

「私は感情的になりやすい性格なので、よく『子どもっぽい』とか『大人になりなよ』と言われます。でも、そこで自分の本当の意思を隠すような大人には、絶対になりたくないんですよ。
スケールが大きくなりますが、例えば歴史上の有名な人物って、ずっと子ども心を忘れなかったからこそ、誰にも負けないチャレンジ精神があって、いろいろな発見や後世に語り継がれる偉業を成し遂げられたんだと思っていて。だから私も、アイデンティティである“子ども心”をなくしてはいけないと改めて思いました」(「日経エンタテインメント! アイドルSpecial 2018春」/日経BP社)

寺田蘭世は彼女なりにきちんと意識して、自分の「子どもっぽさ」を受け入れている。ただわがままを言ったり、ただ反抗したりしているのではない。自分の意志を明確に持ち、主張し、議論を戦わせ、そうやって自分という存在に意味を見出している。もちろん彼女は、そういう生き方について「損もあるだろう」と認めている。しかし、損する可能性を認めながらも、彼女は葛藤しながら生きていくことを選ぶ。

「いくら褒められたとしても、『もうちょっと楽に考えてもいいんじゃない?』って言われたとしても、それはその人の考えた定義であって、私が生きていく上での定義ではありませんから。葛藤しながら生きていって、死ぬ瞬間に楽しかったなって思えればいいかな…っていうことを最近考えます。御年19歳」(「BUBKA」2018年5月号/白夜書房)

こういう考え方の延長にあるのが、寺田蘭世を象徴する言葉でもある「センターになりたい」という発言なのだろう。

寺田蘭世は、乃木坂46に加入した当初からずっと「センターになりたい」と主張していた。乃木坂46は、ガツガツしているように見えないメンバーが多く、また、センター経験者のほとんどが、センターに選ばれた時に泣いたりネガティブな発言をしていた。そういう意味で、アイドルである以上目指すべきはセンターだと、センターになることをメインの目標に置いているように感じられるメンバーは、乃木坂46の中にはほとんどいなかったように思う。そういう中で、研究生の時代から「センターになりたい」とあらゆる場面で発言し続けてきた彼女の言葉は、非常に強い印象を与えることになる。

「初期から『まわりから認められた上でセンターになりたい』と言ってました。気の強い子だと思われていたかもしれないけど、言葉にした以上はふさわしい行動をとるようにしてきたつもりです。段々と、まわりの方も『寺田はただのバカじゃない。考えたうえで発した言葉なんだ』と気づいてくれるようになったのかなと思います」(前掲「EX大衆」2017年1月号)

ファンによる総選挙があるわけではない乃木坂46において、センターになるために何をすればいいのかというのは、他のアイドル以上に明確ではないように思う。運営側が考える今後の方針や、その時々の乃木坂46を取り巻く状況に大きく左右されるだろうからだ。何をすればセンターに近づけるのか、判然としない中で努力し続けるというのは、かなり精神的に堪えることだろう。しかも彼女は、アイドルとしての活動期間のほとんどをアンダーとして過ごしており、センターはおろか、選抜の常連にもまだなれていないのだ。そういう中にあって「センターになりたい」と主張し、それに見合う努力をし続けることは、葛藤の連続だったはずだ。しかし彼女は、そういう生き方を自らで選び取った。

「『センターになりたいです』という言葉だけが先行してしまって、動いている私を見てもらえる場が少なかったんですよ。アンダーライブだって研究生だったから最初は出られなかった。だけど、『いつかは分かってもらえる』という自信はあったんです」(「月刊ENTAME」2018年3月号/徳間書店)

こういう発言から、寺田蘭世は強い女性なのだと感じる人が多いだろう。実際にそういう見られ方をずっとしてきたと彼女は語っている。しかし彼女の自覚では、それは弱さの裏返しであるようだ。

「私は弱い人間だからこそ、センターという目標を掲げて前に進みたいんです」(「EX大衆」2018年5月号/双葉社)

ここが、寺田蘭世の面白さだと僕は感じる。

彼女は、スタッフやメンバーから「もっとポジティブになれ」と言われるくらい、ネガティブさが全面に出てしまう人であるらしい。これまでの彼女の発言からは、イメージできないだろう。しかし、以前「寺田蘭世にとっての「ネガティブさ」の意味~「BRODY 2017年4月号」寺田蘭世のインタビューを読んで~」という記事の中で触れたように、寺田蘭世にとって「ネガティブさ」というのは、ある種の原動力なのだ。ネガティブであることは、「満腹感」を得るのを避けるようなスタンスであると僕は感じていて、そのことが彼女を前進させているのだと思う。彼女も、「ネガティブだからこそ成立しているところもある」という発言をしていて、自らの我の強さとネガティブさをよく理解しているのだなと感じさせられる。

「常に負けず嫌いだし、褒めて伸びるんじゃなくて、挑発されたほうがスイッチが入るタイプなので。(中略)『覚えとけよ~!』っていうのが私の原動力なのかな。最近だと、選抜の枠が増えたから入ったんだと思われるのが一番嫌で!『私の4年間の努力をなんだと思ってるんだ!』って思います(笑)」(前掲「BRODY」2017年4月号)

弱さの自覚がネガティブさとなり、しかしそのネガティブさの自覚が強さの原動力になる、という不思議な作用が、寺田蘭世というアイドルを非常に面白いものにしているのだと僕には感じられる。

また最近では、昔ほどは肩肘を張らずにいられるようになったようだ。

「アンダーに戻ったときはいろいろと思うところもあって、全国ツアーでもひっそり泣いていました。でもそれで『蘭世ってこんなに脆いんだ』と知ってくれたメンバーもいて、『いつも頑張ってるんだから』と支えてくれたんです。今まで『折れちゃいけない』と思いながらやってきた意味があったし、自分のことが受け入れられるようになりました」(「月刊ENTAME」2018年5月号/徳間書店)

別のインタビューでは、「5ミリくらいは自分のことを褒めてもいいんじゃないかと思った」と発言していて、自分を受け入れる幅はまだ決して大きくはないようではあるが、ネガティブさしか原動力がなかった頃と比べれば大きな進化と言えるだろう。

弱い自分を自覚し、そんな自分が強くなっていくために全力を出し続ける。彼女がそういう想いでしんどい道のりを歩み続けることが出来るのには、こんな理由もあるようだ。

「一番弱い者が強くなったら、それが本当の最強だと思うので」(「乃木坂46×プレイボーイ2016」/集英社)

乃木坂46の中で、寺田蘭世が一番弱いのかは僕には判断できないが、仮にそうだとした時、一番弱い寺田蘭世が強くなれば乃木坂46が最強になれる、という理屈は確かにその通りだろう。

そしてそういう感覚は、ファンに対しても向けられている。

「私達が頑張っている姿を見て、ファンの方も頑張ろうと思うから成立しています。だから、私もそういう存在になれたらいいなって」(前掲「BRODY」2017年4月号)

弱い自分が頑張ることで、他の誰かを強くすることが出来る。その決意がある限り、寺田蘭世は全力で走り続けることだろう。

「そこでわかったのは、『自分』をしっかり持っていないと不安になるということです。今年は20歳にもなるし、『自分』をしっかり持って、いい年にしたいなと思っています。いつか乃木坂46を卒業した時に、人間として薄くならないような生活を送りたいです」(前掲「BUBKA」2018年5月号)

既に充分すぎるほど「自分」を持っていると感じるが、とにかく、今の弱さと強さを兼ね備えたまま、大目標であるセンターに向かって、突き進んでいって欲しいと思う。

筆者プロフィール

黒夜行
書店員です。基本的に普段は本を読んでいます。映画「悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46」を見て、乃木坂46のファンになりました。良い意味でも悪い意味でも、読んでくれた方をザワザワさせる文章が書けたらいいなと思っています。面白がって読んでくれる方が少しでもいてくれれば幸いです。(個人ブログ「黒夜行」)

COMMENTS

  1. 2期生の御披露目が、毎日深夜に配信されたゴールデンウィーク。今かいまか?と何度もスマホを開いていた覚えがあります。いかにも「アイドル」っていう感じでインパクトが強かったのが北野日奈子。そして。個性が強そうな印象を持ったのが寺田蘭世でした。

    「勉強もできない。運動もダメ。そんな私が(学校の)みんながなれないアイドルになってやる」と乃木坂46に入った頃に言っていました。見返してやる という意味なんでしょうか?中学生なのに、「私には乃木坂しかありません。それ以外のものは全部おいてきました。」劣等感を強さに変える凄まじい「強さ」と覚悟を感じました。
    一年後の 16人のプリンシパルでは出演者で唯一2幕目に進めなくて(本人談、裏付ける資料はありません)「出演者で唯一人2幕目に進めなかったこの私が、センターになったらすごいでしょう~(それを目指してがんばる)」と言っていたことから、本当に-を+のエネルギーに変える凄い思考を持っていると思いました。このときの公演は研究生は出演回数が限られていて(確か、一人6回?)いろいろ不利な条件がありましたが、当時同じ研究生だった伊藤かりんや渡辺みり愛は主役のポリン姫に選ばれた公演もありましたから、やはり劣等感を感じていたんだと思います。

    最近のミニライブ等で、発言を求められて、(漢字の読みを間違えた)変なことを言ったりして「バカがばれたぁ~」と言ったりすることもありますから、和田まあやのような「かわいいおバカ」路線も選択肢のひとつだと思いますが、それをしないのは、弱い自分を表に出したくないという思いがあるのでしょうか。

    寺田蘭世には、弱い自分に勝つ為にいつも強気の発言をしているところもあると思います。
    ただ、乃木坂工事中で相楽伊織が言っていたように気の強さは本物だと思います。

    • コメントありがとうございます~。

      僕は2期生を初期から見ているわけではありませんが、やはり最初からインパクトを与える存在感だったんですね!乃木坂46は、劣等感を劣等感のまま見せることを否定しない雰囲気があるような気がしますけど、そういう中でも、劣等感を燃料に変換して、劣等感のままは見せない寺田蘭世は、面白い存在だなぁ、と思います。

      劣等感がベースだと、本人も言っているように「死ぬまで満足しない」という感じになっちゃうと思いますけど、それで強くやっていけるならそれもいいのかなと思いますね。

      気の強さをあまり感じないメンバーが多い中で、グイグイ突き進んでいってほしいですね~

FacebookでシェアTwitterでシェア