Nogizaka Journal

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乃木坂散歩道・第210回「坂道×ジャズ×ワイン」

始まりはこの言葉からでした。

sanpo210-1坂道シリーズ ジャズ ピアノ Presso – YouTube

 「アルコールのお供にどうぞ」。これはPressoさんのピアノ演奏動画「坂道シリーズ ジャズ ピアノ」に書かれた説明です。
 この言葉を見た時から、僕の挑戦が始まりました。Pressoさんの『ジャズ』に合うお酒を探し出して、そのお酒と供に曲を楽しもうと。

 Pressoさんに関して詳しくはこちらをご覧ください。
 乃木坂散歩道・第206回「『ハルジオンが咲く頃』ピアノ+α Remix by Presso」

 まずは、全体的なイメージを決める事から始めました。曲を聴く僕たちがいるのは『Presso Piano Lounge』です。少し暗めの照明に、ゆったりとしたソファーが並びます。決して雑音は多くありません。ギャルソンが歩く音も、絨毯に吸収されて、心地よい静けさに包まれています。

 そんな中、演奏が始まります。


 (以下、YouTubeを再生しながら読んで頂けたら幸いです。)

「サイレントマジョリティー」

 ジャズバーの雰囲気に合うお酒はというと、ウィスキーやブランデーなんかが合うと思うのですが、この曲を聞くと、そういったハードリカーという選択肢は僕の中では消えました。理由は『スピード感』です。Pressoさんの演奏の特徴は『音が多い』。ただ楽譜通りに弾くのではなく、一層、二層と音を重ねていきます。それでいてスピード感が落ちません。ジャズとラテンという少し大人テイストの楽曲の中に、疾走感を併せ持つ、そんなイメージが浮かびました。大人テイストだけどスピード感を感じるお酒って何でしょう?

 原曲の「サイレントマジョリティー」は欅坂46のデビュー曲で、彼女たちの未知なる潜在力がぎっしり詰まった一曲です。可愛らしい、あどけない彼女たちが見せる、引き締まった表情。「One of themに成り下がるな」という、大人の僕にもガツンと響く言葉。この楽曲が持つ力に対抗させるには、どんなお酒が良いでしょう?

 僕が提示するお酒は「アイスインペリアル モエ・エ・シャンドン」という『シャンパーニュ』です。ただ、普通のシャンパーニュではありません。ワインではちょっと珍しい、氷を入れて飲むタイプのシャンパーニュです。

 一般にワインは水で薄まることを極端に嫌います。例えば、ブドウ収穫の時期に雨が降る事をワインの造り手は恐れています。ブドウの果実が水を吸収してしまい、水っぽいブドウになるからです。果実において『瑞々しい』は褒め言葉ですが、ワイン用ブドウでは逆なんです。ワインに求められるのは『果実味の凝縮感』だからです。

 では、アイスインペリアルは何故氷を入れて飲むのか? このシャンパーニュはリゾート地において楽しむために造られました。昼から暖かい屋外で飲んでも良いように、あるいは、ゆっくり飲んでも液温が下がらないように、そんなシチュエーションを想定して造られました。氷を入れると、どうしても水っぽくなります。それを補うために、製造の最後の工程で通常よりも甘みの強いリキュールが添加されます(この工程は「門出のリキュール」と呼ばれるものです)。

 リゾート地で、“氷を入れて飲む”という所から、このシャンパーニュをイメージしてみると、飲みやすい、爽やかな印象を持ちませんか? 軟派なワインというか。ところが、実際に味わってみると、実に『硬派』です。ワインをあまり飲まれない方が、安易に手を出すと返り討ちに合ってしまいそうな、そんなシャンパーニュです。甘みを強くしているのですが、その甘みによる飲みやすさは、案外高いアルコール感と凝縮度を極限まで高めた果実味によって相殺されます。そして、氷を入れたことで、通常よりも低めの液温になるため、ワインとしての表情は引き締まっています。そこにシャンパーニュ特有の『泡』の刺激が来るのです。
 このシャンパーニュは硬派で、刺激的で、クールなワインです。


 《ストーリー1》
 都内のビルの地下にある、落ち着いた雰囲気のジャズバー。週末の深夜。僕のお気に入りのひと時だ。ソファーでくつろいでいると「サイレントマジョリティー(ジャズバージョン)」が流れてきた。僕はソムリエを呼んで、「この曲に合う一杯」と注文した。ソムリエはやや小さめの白ワイン用のグラスに、氷を半分ほど敷き詰め、そして、白いボトルのシャンパーニュを注いだ。
「アイスインペリアル モエ・エ・シャンドンでございます」。


「あなたのために弾きたい」

 この曲は『大人チャーミング』な曲です。どんなに大人になっても、どんなに歳を重ねても、いつまで『チャーミング』な方っていますよね。溌剌として、笑顔が素敵で、無邪気で。そんな人も時に大人の表情を見せる時が有って、ちょっとドキッとしてしまったり。でも、やっぱり最後はお茶目に笑う君がいる。

 この曲に合わせるのは『ピノ・ノワール』。世界中の人が、ピノ・ノワールに『恋』をしています。
 ピノ・ノワールはワインを造るブドウ品種の一つです。ワインといえばフランスというイメージがありますが、今やフランス以上の品質のワインは世界中にあふれています。だけれども、何故かピノ・ノワールだけはフランス・ブルゴーニュが絶対王者として君臨しています。

 最新の科学技術を用いて、気候、土壌など、ブルゴーニュよりも良い条件のブドウ畑をフランス以外で見つけることは容易です。それなのに、その畑で同じピノ・ノワールのワインを造っても、どうしてもブルゴーニュのピノ・ノワールには敵わないのです。それでも、多くのワイン生産者達がピノ・ノワールに挑戦し続けます。ピノ・ノワールは大変に難しい、それでも、挑戦し続けます。そこに有るのはビジネスではなく、情熱でもなく、『恋』です。ピノ・ノワールへの『恋』が、多くのワイン生産者達をピノ・ノワールへと駆り立てるのです。

 そんなピノ・ノワールのワインの中から、ブルゴーニュに勝るとも劣らない、最高レベルのワインを提示します。


『2007カルクゲシュタイン・シュペートブルグンダー
 フリードリッヒ・ベッカー』

 シュペートブルグンダーはドイツ語でピノ・ノワールの意味で、このワインはドイツのピノ・ノワールになります。
 このワインは、単一の葡萄品種から造られたにもかかわらず、非常に複雑で、華やかな香りが、何層にもわたって押し寄せてきます。味わいはシルキーでエレガントです。この魅惑的な液体は、口に含んだ瞬間に『感動』をもたらします。こういう飲み物って、世界中探しても、そうはありません。

 僕達ワインラバーはピノ・ノワールに『恋』をしています。一度出会ってしまうと、忘れられなくなるのです。ピノ・ノワールは淑女の笑顔です、とてもチャーミングな。


 《ストーリー2》
 仕事終わりに、今日もいつものジャズバーに立ち寄った。いつも静かで雰囲気の良いお気に入りの場所だ。ただ、今日はいつもと少し雰囲気が違う。花が至る所に飾られている。ソムリエに訳を聞いてみると、『ゲスト奏者への祝花』だそうだ。ステージの方を見ると、白いドレスを身にまとった女性が、ちょうどピアノ演奏を始める所だった。
 華やかな香りに誘われて、僕はソムリエに「ピノ・ノワールを」と注文していた。ソムリエは無言でうなずき、立ち去っていく。僕はしばらく、ピアノの音色に聞き入っていた。その演奏はまるで、ピアノで話しかけられているようで、僕はいつのまにか彼女の後ろ姿から目が離せなくなってしまっていた。
 可愛らしさあふれるチャーミングなジャズに身を任せ、ピノ・ノワールの世界へ浸るひと時に満足した僕は、少し気が大きくなって、演奏を終えたジャズピアニストに「もう一曲聴きたいな」と声をかけた。僕のアンコールの言葉に、ミディアムボブの彼女が笑顔で振り返った時、僕は一瞬で、恋に落ちていた。


「ガールズルール」

 この曲を一言で表現するなら『ノスタルジー』です。「ガールズルール」は2013年7月に発売されて、以後、乃木坂46のライブで盛り上がる曲の大定番です。ところがジャズバージョン(正確にはボサノヴァバージョン)になると、『セピア色』の楽曲に変わります。何かを懐かしむような、そういう音色を感じます。

 そんな『ノスタルジー』を表現できるワインがあるのか? 僕が思い浮かんだワインは、イタリアの『バローロ』です。ネビオーロというブドウ品種から造られるワインですが、ネビオーロは非常にタンニンが強くて、渋いブドウです。この渋さを解決するために、伝統的に取られた醸造方法が『樽熟成』です。ワインを年単位の長い時間、樽の中で過ごさせる事で、タンニンの重合を促進し、渋みを和らげるのです。この『長期間の樽熟成』が『ノスタルジー=郷愁』を生み出す要因ではないかと思っています。


≪ストーリー3≫
 今日のジャズバーは少しにぎやかで、少し華やかだ。なんでも女子校の『同窓会』が開かれているらしい。
 「久しぶり~」、「元気にしてた~?」、「今、なにしているの?」
 同窓会の席から漏れ聞こえてくる言葉に、自分を振り返ってみると、働き始めてから、忙しさにかまけて、同級生とは疎遠になってしまい、もう随分年月が経ってしまった。別に後悔はしていない、懸命に生きて来たから。だから、これからも懸命に生き続けよう。“いつか、今日を思い出す”時に、後悔しない様に。
 でも、彼女達の声を聴いていると、少し寂しくもある。取り戻せない過去がある、そんな事を思いながら、ソムリエに注文したワインは、『2005バローロ アルド・コンテルノ』だった。


「エンディングストーリー」

 夜も随分更けてきて、帰り間際に、オーナーのPresso氏に挨拶をされた。折角なんで、ちょっと曲のリクエストをお願いをしてみる事にした。
 「エトワールという名のワインが有るんだけど、今度、このワインに合うジャズを弾いてもらえないか?」と。
 すると、オーナーは
 「大人になりたくても、なり切れない、そんな少女のような曲でしょうか」
 「では、考えておきましょう」
 そう答えて、笑顔で去っていった。


「あとがき」

 未成年の方や、アルコール・ワインを飲まれない方には、申し訳ないと思いながら、記事を書いています。僕はシニアワインエキスパートというワイン愛好家の資格を取得しました。ワイン文化普及の草の根運動が僕のライフワークである故、ワインを扱った記事が多くなることをお許しください。

 それでも、皆さんの人生において、いつかワインに出会った時、この記事を少しでも覚えていていただいて、ワインがただの飲みにくいアルコールではなく、ドラマチックなストーリーが皆さんの心の中で生まれたならば、僕は本望です。

筆者プロフィール

Okabe
ワインをこよなく愛するワインヲタクです。日本ソムリエ協会シニアワインエキスパートの資格を持ちます。乃木坂との出会いは「ホップステップからのホイップ」でした。ファン目線での記事を書いていきたいと思います。(ツイッター「Okabe⊿ジャーナル」https://twitter.com/aufhebenwriter

COMMENT

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  1. Okabeさんいつも素敵な大人乃木坂を紹介していてだき有り難うございます。
    前回も良かったですが今回は更にジャジーな雰囲気に磨きがかかった感じです。
    これは是非LIVEで聴きたい音楽ですね。小さなライブホールとか生ジャズの聴ける店でじっくりとその世界に浸りたいと心から思います。PRESSOさんにもそんな機会があったら是非教えて下さいとツイ上ではありますがご挨拶がてらお願いさせてもらいました。
    乃木ミュージックの世界は奥が深いですね。
    以前、ひめたんに向けて頂いた文も昨日の様ですが、既に選抜入りも果たしてくれました。
    これからも落ち着いた大人ファンとして乃木坂の世界に関わって頂けますようよろしくお願いします。      1Okabe ファンより

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