乃木坂46に3期生が加入して10ヶ月。彼女たちは膨大な露出にさらされている。
僕は乃木坂46のファンだが、彼女たちのことは、テレビか雑誌、あとはネットくらいでしか追っていない。握手会やライブ、イベントなどには行ったことがないので、そちらの方面でどういう露出がされているのかは、直接的には知らない。しかし、雑誌の対談などでその断片は分かるし、何よりも雑誌で3期生が取り上げられる頻度が非常に高い。
これを恵まれた環境だと捉える人もいるだろうが、僕には過酷に映る。3期生が置かれた状況は、エベレストの9合目にいきなりヘリから下ろされて、そこから登れと言われているようなものではないかと思う。高所順応もせず、また少しずつ登って感触を掴んでいくような経験もしないまま、過酷な登山にさらされているのだ。よくやっていけるものだ、と感じる。
そして、やはりというべきか、そういう過酷な状況の中でも、突出するメンバーというのは出てくる。僕が見ている範囲では、久保史緒里と山下美月がずば抜けた個性を発揮していると感じる。雑誌の記述によれば、今年2月に行われた彼女たち3期生の舞台公演『3人のプリンシパル』は凄まじかったようで、共演した酒井敏也氏は、「あの2人は毎日変わっていきましたよね」(「OVERTURE」2017年7月号/徳間書店)と語っている。僕は『プリンシパル』を観ていないので分からないが、雑誌での彼女たちの発言を追っていくと、考え方や個性、覚悟の決め方や表現力などが、ちょっとずば抜けていると感じられる。
今回は、久保史緒里について書いていきたいと思う。
久保史緒里は、不思議な女の子だ。見た目は儚くて清楚なイメージで、「乃木坂らしい」と評されることも多いようだ。大きな声を出すイメージも、グイグイ前に出てくるイメージもないが、「NOGIBINGO!8」(日本テレビ)でのバドミントンをやりながらの自己紹介などを見て、スイッチが入った時の切り替わりに驚かされた。また、同じく「NOGIBINGO!8」での「妄想リクエスト」のコーナーでは、風紀委員役を驚くほど高いレベルで演技してみせた。『プリンシパル』で実力が高く評価された、という話は前々から雑誌で読んでいたが、これほどレベルが高いとは思ってもみなかった。
しかし、何よりも久保史緒里を特徴づけるのは、そのネガティブさだろう。
「初めて会うどんな方からも『この子はネガティブだな』と分かってしまうくらい隠しきれない(笑)。どんなことでもネガティブな方向に思考がいくようにルートが決まってて」(「EX大衆」2017年7月号/双葉社)
乃木坂46にはネガティブなメンバーが多く、そのことが僕にとっての魅力になっている部分はある。齋藤飛鳥を始め、ネガティブな部分をさらけ出すメンバーは多い。その中でも僕の実感として、久保史緒里のネガティブさはかなり群を抜いているだろうと感じる。
同期とも上手く話せないという発言をかつてしていたが、「『お見立て会』の時期は、私がメンバーと何枚も壁を作っていたので」(「BUBKA」2017年8月号/白夜書房)という発言もしている。年代こそバラバラだとは言え、「同じ学校にいる」よりも遥かに強い「乃木坂46の3期生」という関係性の中にいても、打ち解けるのに恐ろしく時間が掛かるのだという。「でも、最近は3期生のみんなに『ネガティブは面倒くさい』って言われるから、申し訳ないなと思い始めたんです」(前出「EX大衆」7月号)というほど、3期生も彼女のネガティブさを認識しているし、それが度を越えたものだと否応なしに分かっているようだ。
「私は、やっぱり自分のことがそんなに好きじゃないので。失礼だなとは思いつつも、相手がなにかを褒めてくださったことに対して、否定してしまうことがあります。(中略)そもそも人見知りで、コミュニケーションが上手じゃないので、嫌われるような発言をしてしまったんじゃないか?とかいろいろ考えてしまいます」(「BUBKA」2017年6月号/白夜書房)
僕自身もネガティブだから分かるが、ネガティブな人間は、考えても仕方ないことをつい考えてしまうことが多い。「嫌われるような発言をしてしまったのではないか」というのは、考えたところでそれが分かることは少ないし、そもそも関わる人全員に好かれる必要などないのだから気にしても仕方ない、という風に思えれば楽になれるのだけど、ネガティブな人間はなかなかそうは思えないものだ。とはいえ、「人と仲良くなるのにすごく時間がかかります。地元の友達でも『本当に仲良くなった』と思うまでに、短くて4年かかっていて」(前出「BUBKA」8月号)というのは、あまりにも物事をマイナスに捉えすぎではないかとは思うのだが。
こういう久保史緒里の考え方がどのように生まれたのか、その背景まで掘り下げるようなインタビューはまだないが、その一端を感じさせるような発言はある。
「でも、なんか…私の部屋はWiFiが繋がってなくて(笑)。だから、動画とか観られないんです。それをお母さんに伝えたら『ウチはそういう家系だからしょうがないよ』って言われて。何をやるにもツイてない、というか」(「BUBKA」2017年5月号/白夜書房)
さらに、乗っていた電車が止まってしまったり、目当てのピザ屋に着いたら運悪く休憩時間だったり――何をやるにもツイていない家系において、特にそれが顕著なのが自分ではないかと語る。牛丼屋で注文したものが出てこない時も、店員に言えないまま帰ってしまうこともあった。
「―『注文したものが来てないんですけど』って言わなかったんですか?
言えない…。基本的に私、そういう人間です。どっちかといえば空気に近いかも(笑)」(前出「BUBKA」5月号)
彼女曰く、こういうことが日常で頻発するのだ、という。もちろんこれも、ニワトリが先か卵が先かという話に近いものがあって判断は難しい。こういう不運が日常の中で積み重なったからこそ、考え方がどんどんネガティブになっていったのだ、という捉え方ももちろん出来る。しかし、ネガティブだからこそ、身の回りで起こる些細な出来事を悪い方に、つまり「自分のせいだ」という風に解釈してしまう、という捉え方も出来るだろう。個人的には、彼女が何故これほどまでにネガティブな思考を持つようになったのかは非常に気になるところだ。いずれインタビューなどで明らかになればいいなと思う。
齋藤飛鳥もネガティブで、自分のネガティブさの源流や、自分のネガティブさが自分にどういう影響を与えてきたのかについて語ることがある。これは僕の持論だが、ネガティブな人間は、言葉で自分を捉える訓練をし続けなければならない。何故なら、ネガティブな思考で生きていくということは大抵、周囲との差異や周りの人間に対する違和感などをもたらすことになるからだ。そういう中で生きていかなくてはならなくなる。久保史緒里も、
「たぶん普通ではないんですよね。まわりからも『普通じゃない』って言われ続けてきたので、自分でもそれはわかっているんですけど(笑)」(前出「BUBKA」5月号)
と発言しているように、やはり周囲との差異の中で生き続けてきたのだと思う。そしてそういう中で生きていくためには、「自分が今何を感じているのか」「それが周囲とどういう差異をもたらすのか」などについて徹底的に自覚し、言語化し、時には他人に話が出来る状態に持っていく必要があるのだ。そうでなければ、なかなか日常生活が厳しくなっていく。これは、僕自身の経験の話だが、ネガティブな人間にはそういう傾向があるはずだと思っている。
だからこそ僕は、ネガティブな彼女たちに惹かれるのだ。僕が雑誌で乃木坂46のメンバーを追いかけるのは、彼女たちの言葉を知りたいからだ。考え方や価値観を知りたいからだ。だから僕にとって、言語化出来る能力というのは、男女問わず人間に関心を持つ際の一番重要なポイントだ。ネガティブさは言語化力を生む。だから、ネガティブな人間に惹かれてしまう。
僕が久保史緒里の一番好きな部分は、「月刊AKB48グループ新聞」の中でのこの発言だ。
「ライブのMCの台本を渡されたときに、桃ちゃん(大園桃子)のせりふとかを覚えています。私は人に頼るのは得意じゃないけど、人に頼られるのは好きなので、本番中に桃ちゃんが『何だっけ』という顔で私に頼ってくれるのがうれしくて」(「月刊AKB48グループ新聞」2017年6月号/日刊スポーツ新聞社)
久保史緒里に強く関心を持ったのが、この発言に触れた瞬間だった。凄く良い子だな、と思ったのも確かだ。しかし、それだけではない。この発言は、ネガティブさと闘い続けてきた彼女が獲得した強みだと感じたのだ。
久保史緒里は、一人の方が好きだという発言を良くする。
「私も自分の好きなように生きています。みんなが『ねぇねぇ明日遊びに行かない?どこに行きたい?』みたいな話をしているなかには、あんまり自分から行きたいとは思わないです。
―みんなとエンジョイしたい!とは思わない?
ショッピングに行くくらいだったら、ひとりで森林に行きたいタイプなので(笑)」(前出「BUBKA」6月号)
何故そう感じるのか。それは次の発言から分かる。
「誰かを誘うことによって、その人の時間が私の時間になっちゃうし。その人はもしかしたら、なにかほかに違うことをしたかったかもしれないのに、付き合わせてしまうのも申し訳ないです」(前出「BUBKA」6月号)
久保史緒里は、誰か他人といることで、考えすぎてしまうのだ。何を考えるのかと言えば、「今ここで自分はどうあるべきか」ということだろう。この感覚は、僕の中にもずっとある。その場における自分の役割を考えすぎてしまうが故に、他人といることに疲れてしまうのだ。だから、一人でいたい。
こういう性格は、必要ではない場面でも考えすぎてしまうので疲れてしまう。しかし裏を返せば、必要な時には必要な形で適切な役割を認識することが出来る、という意味でもある。それが先程の、「桃ちゃんのせりふを覚える」という発言に繋がっていく。自分の役割を考える必要がない場面ではあまりに過剰に働きすぎてしまう彼女の性格が、自分の役割を考える必要がある場面では強力な武器に変わるのだ。これはまさに、ネガティブさと常に向き合い、闘い続けてきた彼女だからこそ持ち得た力だろうと僕は感じるのだ。
そんな彼女も、乃木坂46に入り、少しずつ変わってきたようだ。
「私も『あぁ、無理かもな』と思うけど、『できなくてもやろう』という精神は持つようにしてます」(前出「EX大衆」7月号)
ただし、無理矢理自分を変えるようなことはしない。
「最近はポジティブになるのも違うなと思ってます。もしポジティブになったら全然違う人間になってしまうので、いまはネガティブを減らしていけばいいかなって」(同前)
それでいいと僕も感じる。ネガティブさは、うまくコントロールすれば武器になる。敢えて手放す必要もない。うまくコントロール出来るようになるまでは周囲に迷惑を掛ける機会も多くあるかもしれないが、それも個性だと割り切って、自分らしくいて欲しいと思う。
何より久保史緒里は、少しずつネガティブさをコントロール出来るようになってきているようだ。
「―おふたりはライバル関係ではないかもしれませんが、3期生のなかで一番を目指したいという気持ちはありますか?
『一番になりたい』って考えたことなかったんです。むしろ、私が目指す場所は、3期生のなかでの一番じゃなくて、自分のなかでの一番。今の私ってダメダメなんです。『こうなりたい』と思い描いている理想の自分からは、ほど遠くて」(前出「BUBKA」8月号)「―誰かと比較することもない?
以前までは、ちょっとの差だけですごく比較してたんですよ。なんであの子はできるのに、私はできないんだろう…って比較ばかりしていて。でも、今はしなくなりました。それがいことか悪いことはわからないけど、比較する相手が『昨日の自分』だっていうことに気づいたんです。自分を越えられない人間が、他人を越えられるわけがないので、まずは昨日の自分を越えていこう、っていう考え方に変わりました」(同前)
これまで誰か他人と比較するのに向けられていたネガティブさが、昨日の自分に向けられるようになったという。素晴らしい方向転換だ。他人と比較しても、比較対象である他人の情報を正確には手に入れられないから、どうしても予想が入り交じる。しかし予想が混じる場合、ネガティブな人間には、どんどん悪い予想をすることになってしまう。結局これでは、まともな比較は出来ない。昨日の自分であれば、ほぼ正確に捉えることが出来、予想が混じる余地もない。昨日の自分を乗り越えるために何が出来るのか。問いをそう捉え直すことで、彼女はより力をつけていくことだろうと思う。
そんな久保史緒里だが、最近発売された「BUBKA」2017年8月号で、山下美月と対談をしている。僕は乃木坂46が取り上げられている雑誌をかなり買って読んでいるが、ここ最近読んだ中ではずば抜けて良い対談だったので、久保史緒里が山下美月との関係をどう捉えているのかという話に触れてこの記事を終えようと思う。
「あと、ふたりで一緒にいると『珍しいね』って言われるんですよ。だけど、全然仲悪くない」
「ファンの方にも聞かれたことあるよ。『山下ちゃんとどういう関係なの?』って。だから『俺の嫁!』って答えたんですけど(笑)」(前出「BUBKA」8月号)
2人が突出した成績を収めた『3人のプリンシパル』以降、彼女たちはライバル関係として見られることが多かったという。こんな風に書かれると、『プリンシパル』でどういう争いが繰り広げられたのか、凄く気になるところだ。
「BRODY」2017年6月号には、『3人のプリンシパル』での久保史緒里と山下美月の様子が活写されている。
「忘れてはならないメンバーが2人いる。今回の『3人のプリンシパル』を牽引したと言ってもいい2人、久保と山下だ。2人は初日から第二幕に選ばれ、千秋楽までの15公演中、久保が11公演、山下が10公演に出演。第一幕ではともにネガティブさを発揮してスタートした2人だが、演技審査になると一変し、堂々とした演技を見せ立候補した役を勝ち取っていった。しかも、彼女たちは演技初心者なのに、公演を重ねるごとに深く、細やかな演技を見せるまでに成長する」(「BRODY」2017年6月号/白夜書房)
こう評されながらも、彼女たちは自信がないまま闘い続けた。久保史緒里は、「もうダメです、今日は何をすればいいかわからないです」(同前)と嘆き、山下美月は、「次に出られなかったら死のう」(同)というあまりに悲壮な覚悟で臨んだ日もあったという。
「久保の存在が山下に火をつけ、山下の存在が久保を支えた。乃木坂46に入っていなければ、おそらく出会うことはなかったであろう2人だが、気づけばお互いは唯一無二の存在になっていたのだ」(同)
いかに彼女たち二人が、お互いの存在を意識し、お互いを高め合いながら『プリンシパル』を乗り越えていったのかが、とてもよく分かる観戦記だった。
そんな二人だが、久保史緒里は山下美月のことをさらに高いレベルで捉えている。
「最近気付いたんです。やましーの存在が特別であることに」
「なんていうか…たぶん、やましーとは前世で会ってるんですよ」
「やましーは私のことを前から知っているんです」
(前出「BUBKA」8月号)
これらの発言に対して山下美月は、「え、やばくない?(笑)」「え?大丈夫?(笑)」と反応しており、この対談で初めて聞いたことが伺える。山下の反応にはお構いなく、久保は自分の考えをどんどんと喋っていき、周囲は恐らく「大丈夫かな…」という雰囲気になっていたように思うが(なんとなくそう感じる)、臆することなく主張する。ネガティブな人間とは思えないほどの前のめりぶりであり、その点が一層、久保が山下を非常に大事で気の許せる存在として見ているのだということが伝わってくる。
「…こんな出逢い、もう一生ないかもしれない!
(山下) 本当に?
ないよ!誓える!この出逢いはもう一生ない!」(同前)
久保史緒里にとって山下美月とは、ここまで言わしめる存在なのである。
山下美月もまた、久保史緒里の存在を非常に大事なものと捉えているが、さらにその上で、山下らしい客観的な捉え方もしている。
「でも、私たちの関係性を見ていて『面白い』って思うファンの方もいるんじゃないですか。乃木坂46というグループというか、エンターテインメントって、面白いことが第一だと思うんです。だから、このふたりがライバル関係っていうふうに見られているのも、私はすごくいいことだなと思っていて。そのストーリーを面白いって思ってほしいです
(中略)
でも、台本もないのに、こうやってストーリーができあがっていくのは、すごいことだと思う。
―『プリンシパル』がきっかけで自然と生まれたものですからね
(中略)
もし『プリンシパル』がなかったら、私たちもこんなに仲良くなっていないと思うし」(同前)
期せずしてライバルのような関係になり、一方でお互いを前世から会っていると感じるほどの親しさで捉えている二人。『3人のプリンシパル』を演出した徳尾浩司氏が「この2人は今後の3期生を背負っていくであろう人間ですしね」(前出「BRODY」6月号)と語るほどの実力を持つ二人が今後どんな風に乃木坂46の中で活躍していくのか。今から非常に楽しみである。
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