Nogizaka Journal

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自己不信なプロデューサー・松村沙友理

僕がグラビアやライブにあまり興味が持てない理由の一つは、外側から見るだけでは「ホントウ」に辿り着けないと思っているからだ。もちろん、言葉も嘘をつくし、「ホントウ」を正確に表現できないことだってある。それでも、少なくとも僕にとっては、本人の口から出る言葉の方が、より「ホントウ」に近いと感じられる。だから僕は、彼女たちの言葉を見聞きして「ホントウ」を知りたいと思ってしまうし、その過程で、外側から見たイメージを覆される瞬間を楽しいと感じる。

雑誌に掲載される松村沙友理のインタビューを読んでいて、一番意外だったのがこの文章だ。

「私、本当に人付き合いが苦手で、自然に友達になるっていうのが無理なタイプなんです。だから『あなたは今日からさゆりんご軍団ね』と言って自分から囲いを作らないと、距離を縮められなくて」(「別冊カドカワ 総力特集 乃木坂46」Vol.2/KADOKAWA)

少なくとも、僕がテレビで見る松村沙友理のイメージとは、まったく認識が違っていた。

“KY”である松村沙友理

Nogizaka46 2nd Album "Sorezore no Isu" Promotional Event "Nogiten" at Shibuya Tsutaya: Matsumura Sayuri

テレビで見る松村沙友理は、誰とでも話せるし、どんな状況でも楽しさを発揮できる人に見える。常に明るいし、ポジティブだし、場を和ませることが出来る。そういうのは、なんというのか、持って生まれた才能のようなものだと僕は感じていた。でも、本人の認識としては全然違ったようだ。

「私の場合、それを出したときに、みんなにどう思われるのかを考えちゃうんですよね。なんだろう…やっぱり、こわいんですかね。本心を出すのが。そのときは『わかるよ』って言ってくれるその言葉も信用できなかったりするから」(「BRODY」Vol.4/白夜書房)

齋藤飛鳥や西野七瀬は、なんとなく外見から、ちょっと殻に籠もっている感じが伝わってくる。あるいは、秋元真夏のように、「THE アイドル」として針を振り切っているようなタイプであれば、実はあの振る舞いは鎧なのではないかと思えるかもしれない。でも、松村沙友理は、テレビで見るあの振る舞いが自然なものだと僕は思っていたので、「人付き合いが苦手」「本心を出すのがこわい」というようなメンタリティを持っているとは、まったく想像していなかった。

「すべての考え方が周りとズレすぎていて。(中略)自分、すごいKYだなって思います。だから『空気読めるね』って言ってもらえることが多いんですけど、自分的にはぜんぜんそうは思えなくて、もうちがう世界の住人みたいな感じがしてしまって」(「BRODY」2016年10月号/白夜書房)

テレビで見ている限りは、その場その場の状況に合わせてうまく立ち回っているように見えていた。だから「KY」という認識は意外なのだが、しかし彼女の言葉の中にその振る舞いを読み解くヒントがあるようにも感じられた。人付き合いが苦手だから、「あなたは今日からさゆりんご軍団ね」と言って囲わないと距離を縮められない、と彼女は言っている。それと同じように、「アイドルとしての私はこういう感じね」と決めて人前に立っている、ということかもしれない。

元メンバーの橋本奈々未は、松村沙友理の「KY」という自己認識について、活動当時に「確固たる自分」という捉え方をしている。かつて僕が書いた<『橋本奈々未=ダメ人間』という捉え方〈前編〉>という記事にその引用があるが、「自分はこうだ」という確固たる基準を持っているが故に、世間とのズレもすぐに認識出来てしまうと分析している。松村沙友理の「KY」という表現は、はっきりとした明確な何かを持っているという、彼女自身の強さの現れでもあるのだろう。

乃木坂46の色んなインタビューを読んでいると、「本来の自分」と「アイドルとしての自分」のギャップに悩んでいるメンバーが多いように感じられる。しかし松村沙友理の場合、「本来の自分」がそもそも「世間一般」からズレすぎているために、きっとこれまでの人生でも、「本来の自分」とは別の「表向きの自分」を設定して生きてきたことだろう(あまりにも周囲とズレすぎている場合、そうしないとなかなか人間関係をうまくやっていけないと思うからだ)。そうだとすれば、「本来の自分」とはギャップのある「アイドルとしての自分」を設定して、それに準じて行動することに、違和感を抱くことはないだろう。だからこそ、アイドルとしての松村沙友理が不自然に見えない、ということもあるのかもしれない。「本来の自分」の明確さを意識できているが故に、「アイドルとしての自分」を設定して振り切ることに躊躇がないということだろう。

プロデューサーとしての松村沙友理

そしてそれは、プロデュースする力と直結するように僕には感じられる。自分自身をどう見せるか、というのは誰しもが考えることだろうが、周囲と相容れない「本来の自分」を持つ松村沙友理の場合、より高いレベルでそれを実行していかなければならないと思うからだ。

しかし彼女には、そういう認識もないようだ。

「自分を客観的に見るのが苦手なんです。そういう意味では、自己プロデュースがすごく下手なんじゃないかと思います。何をしたら正解なのかわからないので、正直自分がどう変わったのか全然わかんないです」(前出「別冊カドカワ 総力特集 乃木坂46」Vol.2)

乃木坂46には、自分に自信のないメンバーが多いが、自分のことをあれだけ「可愛い」と自信満々に言っておきながら、松村沙友理もまた、自分に自信が持てない人であるようだ。

しかし、自分以外のことであれば自信を持てるようだ。

「欅坂46もできて、乃木坂3期生募集となると、そのはざまにいる2期生のことを心配してしまうんです。どうしてもこの子たちを知ってもらいたいと思っちゃう。(中略)もちろん自分のことも大事だけど、今は自分のことはまだ先でいいというか。私はゆっくり長く生きていきたいので(笑)」(前出「別冊カドカワ 総力特集 乃木坂46」Vol.2)

こういう視点は、まさにプロデューサーのものだろう。佐々木琴子、寺田蘭世、伊藤かりんが所属する「さゆりんご軍団」などは、まさに2期生をアピールする手段の一つとなっている。「さゆりんご軍団」が先駆者となることで、「真夏さんリスペクト軍団」や「若様軍団」など、1期生が2期生・3期生と組むという流れが出来ただろうし、それが実際に仕事にまで繋がっていく道筋をつけたという意味でも功績はとても大きいと思う。

また、乃木坂46をどう見せるのか、についても彼女なりの考え方がある。

「私がいろんな物事を考えるときに優先していることは、どちらかというとファン向きじゃないんですよ。すべて一般の方にどういうふうに届くかを考えていて。乃木坂46のことをよく知らない方がフラットな気持ちで見たときにどう受け止めてもらえるかをすごく考えちゃうんです」(前出「BRODY」10月号)

こういう発言をするメンバーは、とても珍しいと思う。一般的には、「ファンの方のお陰で」「ファンの方に喜んでもらえるように」という言い方になる。もちろん、松村沙友理自身もそういう感覚は持っているだろうし、そういう発言もしていることだろう。しかしその一方で、自分の言動が、今はまだ乃木坂46のファンではない人にどう捉えられるかを意識しているというのだ。彼女のような考え方を持っているメンバーももちろんいるだろうが、しかしインタビュー上での発言としてはあまり目にしたことがない。これもまた、乃木坂46をプロデュースするという視点を持った上で、その中で自分に何が出来るのかという意識があるからこその発言だろう。

松村沙友理をプロデューサーにしたもの

そんなプロデューサー視点を持つことが出来るのには、彼女のこんな価値観が関係しているように思う。「強さとは?」と問われた時の答えだ。

「他人を受け入れることかな。いろんな人を警戒心なく受け入れたり、他人の気持ちを分かってあげられる人は強いと思うし、そういう人になりたいです」(「7ぴあ」2017年9月号/ぴあ)

他人のことをこういう意識で見ているからこそ、それぞれの「推し出すべき部分」「アピールしていく部分」が目に飛び込んでくるのではないかと思っている。見えてしまったからには、自分が推し出す手助けをしてあげなければならない。そんな意識でいるのかもしれない。

もちろん、かつて自身のスキャンダルで乃木坂46に迷惑を掛けてしまった、という悔恨も関係していることだろう。乃木坂46に残してもらったからには、自分に出来る貢献は最大限しなければ、という意識は、やはり持っているのではないかと思う。

かつて僕は<その笑顔は、仲間を輝かせる光・高山一実>という記事を書いた。記事の中では、高山一実を「他のメンバーもきちんと目立たせることで乃木坂46全体を強くする、そういう意識を持っている人」として描き、同様の意識を持っているメンバーとして生駒里奈、秋元真夏、そして松村沙友理を挙げた。

この4人の中で「プロデューサー」という肩書が似合うのは、やはり松村沙友理ぐらいではないかと僕は感じる。生駒里奈も秋元真夏も高山一実も、メンバーの言動を拾って輝かせるのはうまいと思う。しかし松村沙友理の場合は、言動を拾うのではなく、あらかじめ特性を見抜いてそれに合った場を用意したり、状況を作ったりすることに長けているように思う。乃木坂46の中で、代替不可能な役割をになっていると言えるかもしれない。

捉えがたい、松村沙友理の存在感

「―乃木坂46に入って変わったことは?
いい意味でワガママになりました。親から『あんたほど言われたことをそのまま受け入れる子はいない』と言われるような子だったんですけど、乃木坂46に入ってからは自分の意志で『これがいい』と言えるようになったんです。この世界ってどうしても競争する部分があるから、自分の中の負けず嫌いな部分が出るようになったのかな」(「乃木坂派」/双葉社)

インタビューでの発言を読めば読むほど、テレビで見る松村沙友理像とかけ離れていく。そのこともまた面白い。乃木坂46に入ったことで、人生や価値観が激変したメンバーは多いだろうが、彼女もまたその一人だということだ。「あんたほど言われたことをそのまま受け入れる子はいない」というようなイメージは、少なくともテレビ越しには感じられない。

「私はなんでも欲しがりだから。超欲しがりで、貪欲なんですよ」(前出「BRODY」10月号)

そう、これが、僕がイメージする松村沙友理だ。欲しがりで貪欲で、グイグイ前に出ていって場をかき乱しながら、何故か場を和ませもする。きっとそういう振る舞いをするのに、「本来の自分」である「KY」が役立っていることだろう。最近インタビューを読んでいると、「自然体でいられるようになった」と発言するメンバーが増えてきているように感じられるが、松村沙友理もまた、どこかで「KY」な自分を出しても大丈夫というスイッチが入ったのかもしれない。

貪欲でありながら、自分以外のメンバーも自分から積極的に前に押し出していく。アイドルらしい可愛い振る舞いをするかと思えば、『(生田絵梨花の)フィンランド民謡に負けたって思って…それがめちゃくちゃ悔しくて。「次は絶対にまっちゅんがいちばんになってやるんだ!」って心に決めてがんばったんです』(前出「BRODY」10月号)と、謎の対抗心をむき出しにして「ピクミン」の真似をしたりもする。「乃木坂工事中」(テレビ東京系)でタイ行きを賭けたプレゼンの際に、「お尻半分ぐらいなら出しますよ」と発言したのも驚かされたが、そういう次に何をしてくるんだかわからない振る舞いも、彼女の魅力の一つだろう。

そんな松村沙友理の理想が、なんとも言えない感じに仕上がっている。

「それでいくと私は『一般人・松村沙友理』を守りたい(笑)。なーちゃん(西野七瀬)が小さいころからモデルに憧れてたみたいに、私はふつうの生活に対する憧れがすごく強くて。ふつうの女子大生やOLさんに憧れたり…会社に行って自分のデスクがあるのに憧れていたんですよ(笑)」(前出「BRODY」10月号)

「アイドル・松村沙友理」に対してのこだわりがあまりないからこそ、自分以外の誰かをせっせと押し出していくような意識が強くなっていくのかもしれない。「自分が自分が」というメンバーは元々少ないグループだが、だからと言って「他人を他人を」というメンバーが多いわけでもないだろう。そういう中にあって、松村沙友理のような人材は、得がたい存在と言えるのかもしれない。

筆者プロフィール

黒夜行
書店員です。基本的に普段は本を読んでいます。映画「悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46」を見て、乃木坂46のファンになりました。良い意味でも悪い意味でも、読んでくれた方をザワザワさせる文章が書けたらいいなと思っています。面白がって読んでくれる方が少しでもいてくれれば幸いです。(個人ブログ「黒夜行」)

COMMENT

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  1. By 多摩地区在住

    以前、『乃木坂工事中』で、(伊藤)かりんちゃんが
    「さゆりんご軍団のおかげでグラビアのお仕事をさせてもらえるようになった」
    ことを話されていました。
    この点においては、彼女(さゆりんご)の功績はあると思います。

    ただ、運営側の売り方が読めないのですよ。
    なんでもかんでもユニットを組んで楽曲にしたり、
    「スイカ」や「チューリップ」などのグループで番組を作成したりなど。

    私、斉藤優里推しとしては、少しでもメディアに出てくれた方が嬉しいのですが、
    売り方については時々猜疑心を持つこともあります。

  2. コメントありがとうございます~。

    さゆりんご軍団は、グループ内ユニットのさきがけだし、
    実際に仕事に結びついているから、
    そういう未踏の地を開拓していった功績はありますよね。

    運営のことはよく分かりませんが、
    少なくともグループ内ユニットというのは(表向きは)自然発生的に生まれているものだから、
    ハンドリングが難しい部分もあるのかもしれませんね。

    松村沙友理がこれから自分とメンバーをどんな風にプロデュースしていくのか楽しみです。

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